ポンコツ魔女は王子様に呪い(魔法)をかける
 それは王妃殿下が輿入れされてからかなりの年月がたち、このままでは……と焦った側近たちが陛下に愛妾を作るよう進言するほどで。

“でも、王妃殿下を愛されていた陛下はそれを頑なに拒んだのよね”

 そんな中でやっと産まれた第一子が男児で、かなり大々的にお祝いがされたというのは私ですら知っている歴史のひとつだった。


 その後、残念ながらまだメルヴィに兄弟はいないが、いないからこそ勢力争いなどはなく平和であるとも言えて。

“でもそれって、メルヴィからしたら――”
 

「いかがでしょうか」

 エッダの声にハッとし、慌てて顔を上げる。
 鏡越しに飛び込んできたのは、真っ黒の髪にドレスと同じ色合いの花がふわりと咲いていた。

「す、凄いわ! 押さえつけてる感じじゃないのにしっかり固定されてるし……、気になるわねっ」
「そう仰られると思ったので、僭越ながらこちらの赤い花と私の髪で説明させていただきますね」

 魔女の習性を心得てくれているエッダは、私の興味を満たすためにあらかじめ準備をしてくれていたらしいのだが、その手には私の髪に挿したネモフィラではない花が握られていた。
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