ポンコツ魔女は王子様に呪い(魔法)をかける
“でも、言われてみれば確かに変ね”

 この城へ来てからそれなりの日にちがたった。
 けれど、私はこの城から出ていきたいとは一度も思わなくて。


“帰る場所がないってことも、メルヴィに魔法をかけてしまったからってのも理由だと思っていたけれど”


 抗えないはずの魔女の習性。

 けれど、ちらりともどこかに行きたいとは思わなかったことに少し違和感を覚える。


「やっぱり魔女の血が薄いのかしら?」

 それとも、興味があるものがこの場所にあるとでもいうのか。

 
“ずっと笑ってるわね”

 にこにこと向けられるこの笑顔は、私の魔法で作り出されたものなのかもしれないけれど。

“それでも嬉しい、なんて”

 私の中に芽生えたこの感情だけは、確実に本物だから。


 じくりと痛む、柔らかい感情にはそっと目を瞑ったのだった。
< 113 / 231 >

この作品をシェア

pagetop