ポンコツ魔女は王子様に呪い(魔法)をかける
「そもそも笑顔を向けてくれる前提、というのが間違ってるのかも」
「どういう意味?」
「メルヴィ!?」

 いつの間にか思考の渦に潜り込んでいた私は、どうやらあの貴族たちを捌ききったらしいメルヴィの声にビクリと肩を跳ねさせた。

「ど、どうしてここに」
「どうしてって……そんなの、中にいなかったから探しただけだよ」
「私、中からは見えないよう扉の端にいたんだけど」

“なのにどうしてわかったの? それとも体感より長い時間考え事をしていたのかしら”

「どうやって見つけたか気になる?」
「き、気になる……!」
「簡単なことだよ、愛の力ってやつ……いだっ、いだだ! せめて踏むだけにして!? 踏んで体重かけて捻るのは反則じゃない!?」

 ギチギチという革靴からあまりしない音を聞きながらジロリと睨む。
 怒ってもおかしくないにも関わらず、それでもクックと喉を鳴らすようにメルヴィが笑っていて。

“それが、私に向ける笑顔?”

 その笑顔は、笑いを噛み殺すようでいて堪えきれていないような、どこか子供のように無邪気なものだった。

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