ポンコツ魔女は王子様に呪い(魔法)をかける
 小刻みに震えていた彼が小さく吹き出したのだ。

「……え、もしかして笑ってる?」
「痛みで苦しんでる」
「いや、絶対笑ってる!」

 依然しゃがんだままの彼の腕を掴み、まるでバンザイさせるようにして無理矢理引っ張り上げるとさっき向けられていたのと同じ、無邪気な笑顔を滲ませていて。

「やっぱり!!」
「ふ、ははっ、だってリリが本気で心配してくれるから」
「それは自分の責任を果たそうと思って……ッ」

“怪我させたのなら手当くらいって”

 ――そう思っただけなのに。
 
 それだけのことなのに、無邪気に笑う彼の表情には喜びの色も混じっていることに気付いた私は少しそわそわと落ち着かない気持ちになった。


 ここが夜会の会場で、皆から隠れるようにこの場所へ来たということをすっかり失念していた私は、彼と過ごすいつもの時間のようにわちゃわちゃと騒ぎ……

 そしてカツカツといういくつもの足音がバルコニーへ向かっていることに気が付きハッとする。


「ちょっと! この場所バレたんじゃない?」

 どうやら失念していたのはメルヴィもだったようで、ゲッと顔を歪める。
< 118 / 231 >

この作品をシェア

pagetop