ポンコツ魔女は王子様に呪い(魔法)をかける

16.気になることを解消したいだけだから

「殿下ッ、ちょ、すみません、殿下ぁ!!」
「めちゃくちゃ呼ばれてるわよ」

 階下から悲壮な声が聞こえ、一瞬顔を見合わせた。
 
 なかなか際どいバランスで引っかかっているソファから落ちないよう下の様子を窺うと、ざわつく貴族たちの中で顔を真っ青にした男性が一人。

“あの焦げ茶色の髪に眼鏡って”

 はじめて彼の執務室へ行ったときに見た顔だと確信した。

「メルヴィの側近よね?」
「あー、ダニエルか。可哀想に、あんなに青ざめて」
「メルヴィが屋根の上にいるからじゃない?」
「ここに連れてきたのはリリだろ」

 それはそう、とあっさり納得した私は階下にそれ以上興味を引かれることなどないと判断しごろりとソファにもたれかかった。

 きっとお行儀が悪い行動だろう。
 けれど下からは見えないし、上には星空が広がっているだけ。

 隣にはメルヴィがいるけれど。

「ふふ、一緒にどう?」
「悪い誘惑だなぁ」

 ははっと笑ったメルヴィもソファに深くもたれかかった。

 ただ二人でぼんやりと星空を見上げる。
 いつもより空が近いのか、星のひとつひとつがより輝いて見える。


「凄く綺麗だわ」

< 122 / 231 >

この作品をシェア

pagetop