ポンコツ魔女は王子様に呪い(魔法)をかける
 バランスを崩しずり落ちかけたソファに座ったままという状況なのに、どこか冷静にそう指示を出したメルヴィは、そのままゆっくりと私を抱き締める腕を緩めた。


「一瞬ひやっとしたが……、大丈夫そうだな」

 ふぅ、と息を吐きながらそう呟くように告げるメルヴィにしがみついていた私は、彼が私を解放しても離す気にならなかった。

 
「? そんなに怖かったのか?」

 心配そうなメルヴィの声がすぐ近くから聞こえ、ドキリとする。
 
 自分でも何故彼にしがみついたままでいるのか、明確な答えを見つけられず首を振るだけでとどめた私は、彼の鼓動が少し早い事に気が付き胸の奥が締め付けられるように苦しく感じた。


“この感情は何だろう”

 私を心配して彼の心臓は早鐘を打っているのだろうか。
 それとも自身にも危険があったから?

 
「私が触れているからだったら」

 ――だったら嬉しい、なんて。


「……メルヴィ」

 自分から、なんてはしたないと思ったけれど。
 彼から触れるならいいかな、とも思ったけれど。

 
「この間の続き、教えて欲しい」
「それって」
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