ポンコツ魔女は王子様に呪い(魔法)をかける
 そもそも私は、師匠の家に行くまでに母とどんな暮らしをしていたのかも何故か思い出せないことに気が付く。
 単純に十年も前のことだから思い出せないのかとも思ったが、ここまで何も思い出せないのはおかしい。
 

「魔法がちゃんと使えれば?」
「あ……」
 
 混乱する私を心配そうに見つめるメルヴィの声でハッと現実に戻り口を開く。

「魔法がちゃんと使えれば師匠に置いて行かれることもなかったなぁって」

『母にも』を口にすることが躊躇われた私は、師匠の話だけで言葉を区切った。
 それは単純にちゃんと覚えてない部分を口にするのはどうかと思ったからだったのだが、何故か師匠と聞いたメルヴィの雰囲気が固くなる。

「つまり、本当はテオ・ニコラのそばにずっといたかったってこと?」
「え」

 師匠の名前を口にしたメルヴィの声色が低く冷たい。
 師匠は定住する変わり者としても、そして本人の実力という意味でもそれなりに名の通った魔法使いだったのでメルヴィが知っていてもおかしくはないのだが。

“ど、どうしてそんなに怒ってるの……!?”
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