ポンコツ魔女は王子様に呪い(魔法)をかける
 言いながら少し溜まり始めたお湯に手を付けるメルヴィ。
 どうやら湯加減を確認していたらしく、少し温度を調節した彼が浴槽から手を抜き振り向いた。

「おいで」
「……っ」

 端的な一言。この言葉に従うことで次どうなるのかわからないほど初心ではないが、だからこそすぐに頷けずに体を強張らせてしまう。
 そんな私にふっと息を吐いたメルヴィは、少し悲しそうににこりと微笑んで。


「逃がさないから」

 彼の伸びた腕が私を絡めるように抱きあげたかと思ったら浴槽へ入れられ、一緒に入って来た彼に後ろから抱きしめられた。
 まだ湯は溜まりきってはいないが、私たちが入ったことで水位があがり胸下までが浸かる。
 
 さっき投げ入れた石鹸の効果なのか、ほんのりピンクに色づいたその湯は強い薔薇の香りと、そして湯自体もトロリとさせていて。

「め、メルヴィ、あの」
「あの石鹸は石鹸としても使えるけど、こうやってお湯に溶かしたらぬるぬるになるんだよ」

 抱きしめられた背中が熱い。
 私の体を包むように回されていた腕が目の前でお湯をぱちゃぱちゃと遊びいつもとは違う感触を私に見せつけた。
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