ポンコツ魔女は王子様に呪い(魔法)をかける
 とにかく私の過去には父はおらず、そして毎日どこかに行きたくてうずうずとしている母の姿だけが焼き付いていた。


 私と母は街外れの森近くに二人きりで住んでいた。
 
 母は精一杯私を育ててくれたと思う。だが、母は母であり生粋の魔女だった。
 すべての魔女がそうだというように、興味の先を見付ければその習性から抗えない。

 そしてそういうものだと私も理解していたし、少なからずその気持ちが母の血を引く――魔女の私にも痛いほどよく理解できていた。

 母は毎日出掛け、そして毎日帰ってきてくれた。
 それが魔女にとってどれほど難しいことなのか、今ならわかる。


「私は、ちゃんとお母さんに愛されていたんだわ」


 普通の人間とは違う形。
 興味をそそられるものから目を背け同じ場所に戻る行為の難しさ。
 
 魔女である母の愛は本物だった。

 けれど、幼い私は理解していても受け入れられはしなかった。


 三食ちゃんと用意され、母と二人で囲む食卓。
 そして食事が終わればすぐにどこかへ行ってしまう母。

“本当はお金を稼ぎにいっていたのかもしれないけれど”
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