ポンコツ魔女は王子様に呪い(魔法)をかける
 何を失敗したかはわからなかったが、とにかく謝らないとと思った私は怒鳴った勢いのまま走り去ろうとしたその少年へと手を伸ばして。


 ――バシッ

 手を弾かれる乾いた音だけがその場に響いた。


「私の手を払った時に見た、あの傷付いた顔……。浴室で見た顔と同じだったな」

 はらりはらりと少しずつ積もる記憶。
 思い出す度に今の彼と重なり溶けて、胸の奥がただただ痛い。



 一瞬傷付いた顔をしたその少年はすぐに眉をひそめ、そして何も言わずに走り去った。
 私はそんな彼の背中をただ見送るしか出来なかった。

 その後どうやって帰ったのかまでは思い出せない。

 適当に歩いていたら偶然家路についたのかもしれないし、さ迷っていたところを帰ってきた母が見つけてくれたのかもしれない。
 
 ハッキリ思い出せないのは記憶が全て甦ってないからではなく、彼の顔が焼き付いて離れなかったからだった。


 何を失敗したかはわからなくても、私が傷付けたということは理解していた私は、その日からその男の子を探すようになった。

 傷付けたのは私なのに、私の手を払ったことにショックを受けた彼。
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