ポンコツ魔女は王子様に呪い(魔法)をかける
 私は何の記憶を魔法で消してしまったの?

 
 気になって気になって仕方がない。
 抗うことが出来ないほどの強い欲求。

 知ることへの興味と探求。
 だってこれは魔女の性だから。

「だから、教えて。きっと今も私を大好きな、そして私の大好きな泣き虫王子様」

 
 薬草の本を抱えたままその部屋を飛び出す。
 下腹部に違和感はあるが、自分で思っていた以上に時間がたっていたのか小走り程度ならできるまでに回復していた。


“でも、どこにいるのかしら”

 執務に戻る、と言っていたメルヴィ。

「でもそれ、絶対嘘なのよね」

 この国唯一の王太子、それもかなり期待され、そしてその期待に応えてきたことを考えると、きっといくらでも仕事は見つかるだろう。
 考えることを拒絶して仕事のスケジュールを詰める可能性だってあるけれど。


「……一人でこっそり泣いていた、あの子が?」

 きっと今頃どこか一人で落ち込み泣いているのではないかとそう思った。


“メルヴィが一人で泣ける場所はどこかしら”


 きっと幼い頃一緒に過ごしたあの森にはいない。
 だって私が今ここにいるのだから。
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