ポンコツ魔女は王子様に呪い(魔法)をかける
 それらの全てが、“私が”彼の探していた魔女なのだと教えてくれた。


「まだ聞きたいことがあるの」

 手を伸ばしても、俯いてしまっている彼までは手が届かない。

“顔を上げて振り向いてくれれば、頭を撫でられそうな距離なのに”

 私はそのあと少しを縮めたいのだ。


「私は何がきっかけで何を忘れてしまったの?」


 彼と過ごした時間がじわりと溶けるように思い出す反面、どうしても思い出せないのは『彼と別れた』部分だった。

“はっきりと覚えていたのは、お母さんに手を引かれ師匠の家に預けられた時のこと”

 だから私は、母に置いて行かれたショックで記憶を封印したのだと思ったのだけれど。

“それはおかしいわ。だって私は連れて行ってとねだったのに置いて行かれたのだと『知っていた』もの”

 もし母に置いて行かれたことをきっかけにしていたのなら、その事実も封印されているはずだから。


「ねぇ、メルヴィ。私が思い出せないのは全て貴方のことなのよ」
「……それだけ俺がリリを傷つけたってことだろう」

 さっきのように、と呟く声がツキリと私に刺さる。
 それでもこの答え合わせはやめられない。
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