ポンコツ魔女は王子様に呪い(魔法)をかける
 もしあの時そのまま告げられていたとしても、「そうかもね」と納得するだけだったに違いない。

「けど、リリは過去を忘れてしまうくらい傷ついて――」

 愕然とした様子のメルヴィの言葉を肯定するようにゆっくり頷く。


「ショックだったの。忘れたいと強く願うほど辛く感じたのよ、……メルヴィの傷付いたその顔が」
「俺の、顔?」

 見開かれていた紺の瞳が更に見開かれる。
 その紺の瞳には、小さな期待を宿しているようで。

「私を傷付けたと思って傷付くメルヴィを見ていられなかったの。私は傷付いてなんかなかったもの」
 
 言ったでしょう? と首を傾げて笑顔を向ける。

「今日だって、間違えないでと言ったわよ。何度も言うけど私は傷付いてなんかないんだから」


 刻んでと言ったのも私。
 誘ったのも私。
 どっちの母がいいのかと疑問に思ったから口にしたのも私だ。

「傷付いたメルヴィの顔が見たくなくて、だから私はその記憶を閉じ込めたの。だから置いて行かれた日の母の様子も、預けられた先の師匠のことも覚えていたわ」

 魔法で忘れたのはメルヴィのことだけ。
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