ポンコツ魔女は王子様に呪い(魔法)をかける
「……流石にどうかと思う」
「それは、その」

 ベッドに横になったままの私は、わざとメルヴィに背を向けそう抗議すると、流石にやりすぎたと自分でもわかっているのか少しまごついたメルヴィが私を後ろから抱きしめて。

「ごめん」

“ごめん、か”


 浴室で何度も口にされたのと同じ言葉。
 けれどその時とは違い、彼の声色には苦しみや辛さなんてものはなく、むしろどこか嬉しそうにも聞こえて思わず私の頬も緩んでしまう。

「全く悪いと思ってないでしょ」
「悪いとは思ってるよ、後悔をしてないってだけ」
「もう!」

 つい数刻前にはこんな軽口が叩けるとは思わなかった。
 だからこそこんなやり取りすらも嬉しくて。


「私、どこにも行かないからね」

 メルヴィに抱きしめられたまもぞもぞと振り返り、彼とまっすぐ向かい合う。
 そのまま彼の胸に顔を埋めるようにしてそう告げると、彼もぎゅっと抱きしめてくれた。

 
“ずっとここにいる”

 だって貴方は誰よりも泣き虫だから。
 完璧であることを期待され、その期待に応えようと足掻く貴方の完璧じゃない場所になりたいから。

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