ポンコツ魔女は王子様に呪い(魔法)をかける
 感傷的な気分で見上げるのは、十歳の時から過ごした私と師匠の家だった。

 
“長い時間を過ごしたわ”

 悲しいこともあったし、上手くできないと嘆いたこともあった。
 それでも楽しい時間だって確かにあって。

 師匠の魔法で入れなくなった家。
 だからこそ間借りさせて貰っていたあの部屋が、あの城が今の私の家だから。

「ちゃんと換気して、お掃除もしに来ます。いつ師匠が帰ってきてもいいように」

 私がそう口にすると、師匠の琥珀色の瞳が柔らかく細まったことに気が付いた。


“ここに師匠の魔法で壁が張られたのよね”

 封鎖だ、と言われ見えない壁で覆われた家。
 ぼよんと弾き返されて強制的に追い出されたあの日を思い出しながら家へと手を伸ばす。

 もちろん魔法が使えるようになった今の私なら、この壁はするりと通り抜けられるはず。

 
 ――……と、思った瞬間が私にもありました。

「んんっ!?」

 伸ばした手が弾力のある見えない壁に触れ押し返される。
 侵入を拒むその壁に驚き慌てて両手で触れ、叩くように腕を振り上げたがやはりぼよよんと弾き返されるだけだった。

「リリ?」
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