ポンコツ魔女は王子様に呪い(魔法)をかける
 気付けば始まっていたふたりの生活。
 最初はここにいてもいいのかと不安そうだったリリアナはすぐに馴染んだ。

 俺としては同居人が増えようと増えまいと興味はなかったので、ここで生活するというならご自由にどうぞ……というくらいのつもりだったのだが、リリアナは思ったよりも働き者でお節介な性格をしているようで。

「師匠! その服をぬいでください、くさいです」
「興味が湧かない」
「ならどの服でもいいでしょう!?」

 着替えを投げつけられしぶしぶ着替える、なんてことも多かった。


 興味に抗えない魔法使いは、一か所に定住することがほぼない。
 同じ場所にいないため、当然定職なんてものに就く魔法使いはほぼいないのだが――


「師匠、今日もお仕事ですか」
「あぁ」

 定職を持たない魔法使いは、人からの依頼で魔法を叶えることで対価として金銭を得る。
 万能だが融通の利かない魔法では叶えられることが限られているが、魔法使いにとっての最終目標を『生活費を得る』と固定し自身の叶えられる願いの範疇でお金を稼ぐ。
 
 それが魔法使いの基本的な生活の仕方だが、この国に唯一定住している魔法使いである俺はなんと『定職』をもっていた。

“まぁ、定職といっても鉱石関係の仕事だからできているだけなんだがな”


 莫大な時間をかけて作り上げられた地層。
 そこから生まれる鉱石は、その莫大な時間で作られたのか、それともその莫大な時間をかける前から存在し、偶然紛れ込んだのか。

 紛れ込んだのならばそれはその時間で変化があったのかなかったのか。

 不変とは何か、を示す鉱石に俺は興味があったのだ。


 いつから興味があったかは思い出せないが、そんなことは些細なものだろう。
 大事なのは鉱石、そして鉱山だ。

 唯一定住する変わり者の魔法使い、という評価の俺だが、実際は違う。
 興味を惹かれたものがそれであり、そして大きな鉱脈が側にあった。

 仕事として存分に研究し発掘する許可も与えられたためにこの場所に留まっているに過ぎない。


 自分で言うのもアレだが、非常に利己的な理由でここにいるだけ。
 そんな俺がリリアナにはどう映っているのか、俺が仕事へ向かう時はいつもキラキラとした尊敬のまなざしを向けてくるのだ。

“お前のためにここにいて、親代わりに面倒見ているわけでもないのに”

 ここにいるのも自分のため。
 それなのに律儀に見送り、そして出迎える幼い子供はやはり他のものより興味深く俺に目に映ったのだった。
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