ポンコツ魔女は王子様に呪い(魔法)をかける
 そしてそれから程なくして、あっさりと次の鉱脈に移ってしまったレベッカ。
 

『元気でね!』なんて笑う彼女は相変わらず可愛くて、そして少し憎たらしくも感じた。

 
 

「やっぱり師匠、おかしいです!」
「またその話か」

 不満そうに頬を膨らませるのはリリアナだ。

“おかしいって言われても”

 そんなこと自分が一番よくわかっている。
 レベッカが目の前からいなくなっただけ。

 
 魔法使いである俺は、置いていかれることには慣れているつもりだった。

 両親も俺を残して行ったし、俺も誰かを置いていくのだろう。

 一緒に暮らしているリリアナだってそうだ。

 それが魔法使いの習性なのだから、そんなことにいちいち心を動かされていては疲弊するだけなのだ。

 レベッカがこの国から出ると聞いた時は、突然だったから驚いたのかとも思った。
 そして実際に笑顔だけを残して行ってしまった彼女。

 目の前からいなくなってしまえば、そういうものなのだと、いつものことなのだと彼女のいない日常が当たり前になるのだとばかり思っていたのに。


「はぁ……」
「ほら! まーたため息吐いてる! 師匠のジメジメで、部屋の中なのにキノコが育ちそうなんですけどっ」
「感情的湿気にキノコの成長作用はない」
「例え話ですってば!」

 もう、と両腕を腰に当ててわかりやすいほどの不満をぶつけるリリアナをチラリと見た俺は、またぼんやりと椅子に座ったままコップの中に注がれた水を眺める。

 無色透明なこの水のように、俺のこの理解できない感情も無色に透けてしまえばいい。
 そうすればこの感情に答えが出るのかもしれない、なんて。


 そんなバカらしいことを考えた俺から乾いた笑いが漏れた。


「ちょ、本当にどうしたんです?」

 流石に段々と本気で心配になったのか、リリアナが俺の顔を覗いてくる。

“お節介なことだ”

 魔女は願いを叶えられる。
 そして魔法を利用したい人は沢山いるのだ。
 
「あまりお節介を焼くな。つけ込む人間だっているんだぞ」
「それはわかってますよ、でも師匠だもん」

 どこか呆れたような顔を向けたリリアナに俺は少し首を傾げて。

「俺も魔法使いだから、お節介を焼いてもつけ込む理由がないってことか?」
「違いますよ!? 何ですかその野生動物みたいな発想! そんなに周りは敵ばかりなんです!?」
「?」

 驚きの声を上げるリリアナは、不思議そうな顔をした俺を見て大きなため息を吐いた。
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