ポンコツ魔女は王子様に呪い(魔法)をかける
「師匠が特別だから、心配したってことです」
「特別?」
「師匠にもいません? その人のことで一喜一憂するみたいなやつ」
ないな、と即座に切り捨てようと口を開きかけた俺がそのまま閉じる。
“一人の人間に、一喜一憂させられる?”
目まぐるしく変わる彼女の表情に、突然目の前から消えた彼女に。
「俺が、感情を揺さぶられてたってことか?」
「いや、知りませんけど」
俺の一人言に律儀に返事をするリリアナは、一瞬呆れたような顔をしたくせにすぐにパアッと表情を明るくさせて。
「でもその人が、師匠にとって特別な人なんですね」
「そうか」
「魔法使いの師匠が固執するなんて、ちょっと相手が可哀想な気もしますけど」
「その言葉丸々返す」
「でも、大事にしてください。特別な人なら尚更です」
不思議とその言葉がするりと溶けて、空虚だった俺の心にじわりと広がる。
“そうか、俺の一番が変わっていたということか”
いつも一番は鉱石なのだと思っていた。
同じ成分で構成されていてもとれる場所や環境によって色も性質も何もかも変わる。
不変的なものでありながら何一つ不変ではないそれらが俺にとっては気になる対象であり興味を惹かれる存在だった。
それなのに。
“思えばレベッカもか”
あのくるくると変わる表情が可愛くて、ずっと見ていたいと思っていた。
子供扱いされて苛立ったのも、勝手に俺の気持ちがリリアナに向いていると思われて不快になったのも全部全部、そうだったのだ。
“レベッカが特別だっから……”
ずっと手の届く距離にいたのに手を伸ばしたことはなかったけれど、いつの間にか俺の興味は彼女へと向いていた。
「今からでも遅くないかと思うか?」
まるで一人言のようにそう呟く。
返事を期待して口にした訳ではなかったが、俺の言葉を聞いたリリアナは大きく頷いて。
「全てに置いて遅いということはないんです! 今というこの瞬間が、いつだってはじまりなんですから」
にこりと笑い力強く断言したリリアナは、話すだけ話してスッキリし興味を失ったのかくるりと俺に背を向けた。
「じゃ、寝まーす」
「あぁ」
やはり彼女も魔女なのだと、そう思うと可笑しくて。
「……今がはじまりか」
誰もいなくなったリビングで、俺は今度こそ本当に一人言を呟いたのだった。
「特別?」
「師匠にもいません? その人のことで一喜一憂するみたいなやつ」
ないな、と即座に切り捨てようと口を開きかけた俺がそのまま閉じる。
“一人の人間に、一喜一憂させられる?”
目まぐるしく変わる彼女の表情に、突然目の前から消えた彼女に。
「俺が、感情を揺さぶられてたってことか?」
「いや、知りませんけど」
俺の一人言に律儀に返事をするリリアナは、一瞬呆れたような顔をしたくせにすぐにパアッと表情を明るくさせて。
「でもその人が、師匠にとって特別な人なんですね」
「そうか」
「魔法使いの師匠が固執するなんて、ちょっと相手が可哀想な気もしますけど」
「その言葉丸々返す」
「でも、大事にしてください。特別な人なら尚更です」
不思議とその言葉がするりと溶けて、空虚だった俺の心にじわりと広がる。
“そうか、俺の一番が変わっていたということか”
いつも一番は鉱石なのだと思っていた。
同じ成分で構成されていてもとれる場所や環境によって色も性質も何もかも変わる。
不変的なものでありながら何一つ不変ではないそれらが俺にとっては気になる対象であり興味を惹かれる存在だった。
それなのに。
“思えばレベッカもか”
あのくるくると変わる表情が可愛くて、ずっと見ていたいと思っていた。
子供扱いされて苛立ったのも、勝手に俺の気持ちがリリアナに向いていると思われて不快になったのも全部全部、そうだったのだ。
“レベッカが特別だっから……”
ずっと手の届く距離にいたのに手を伸ばしたことはなかったけれど、いつの間にか俺の興味は彼女へと向いていた。
「今からでも遅くないかと思うか?」
まるで一人言のようにそう呟く。
返事を期待して口にした訳ではなかったが、俺の言葉を聞いたリリアナは大きく頷いて。
「全てに置いて遅いということはないんです! 今というこの瞬間が、いつだってはじまりなんですから」
にこりと笑い力強く断言したリリアナは、話すだけ話してスッキリし興味を失ったのかくるりと俺に背を向けた。
「じゃ、寝まーす」
「あぁ」
やはり彼女も魔女なのだと、そう思うと可笑しくて。
「……今がはじまりか」
誰もいなくなったリビングで、俺は今度こそ本当に一人言を呟いたのだった。