ポンコツ魔女は王子様に呪い(魔法)をかける
「……リリ」
「ひっ!」

 そんな私の耳元で囁くように声をかけられ、思わず肩がビクンと跳ねた。


「あ、その、これは……」
「気になるの?」
「へ、え……っと、その」

 気にならないとは言えない。
 あんなに夢中になる行為だ。けれど覗き見しているという罪悪感だってある。

「気になるからって、いつまでも覗いていていいものじゃないってことはわかってるわ」
「気になってるなら――、リリが直接体験してみる?」


 一瞬何を言われているのかわからなかった。

“体験? 私が? アレを……?”

 どこか呆然としつつメルヴィを見上げると、彼の紺の目元にじわりと朱が差していて。


 こんなの、良くない。
 気持ちを変えただけでも迷惑をかけているというのに、私の好奇心の為にそこまでさせてしまうのは違う。

 そう、わかっているのに。


「……体験、してみたい」


 私は呟くようにそう答えてしまっていた。



 その場ですぐするのかと思ったが、メルヴィは何も言わず私の手を引き馬車へ戻る。

 王城へ帰る馬車内では私も彼も一言も話さなくて。

“心臓の音がやたらとうるさいわ”
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