ポンコツ魔女は王子様に呪い(魔法)をかける
 誘われるような視線を投げられると、もうその視線から逃げられない。

 まるで懇願するような視線に促されるまま彼の体の上に覆い被さると、私はそっとメルヴィの唇に自ら重ねた。


「んんっ」

 自分から重ねるという行為がたまらなくはしたなく感じ、バクバクと心臓が暴れる。
 遠慮気味に重ねたその唇を、まるで補食するかのようにメルヴィの手が私の後頭部に回され噛み付くような口付けをされた。

 反射的に離れようとするがしっかり押さえられ、隙間を埋めるように密着する。

「ん、ふか……、いっ」

 まるで溺れそうな口付けに思考がぼやけた時、下から持ち上げるように反対の手が私の胸を覆った。

“メルヴィが私に触れている”

 路地裏で見た、あの二人の姿が瞬時に過る。

 上気した頬。
 委ねた体。
 トロンと委ねる彼女たちは互いを求めているのだと一目でわかって。


“私も今そんな顔をしてるのかしら”

 一瞬強張った体から力が抜ける。
 決して恐ろしい行為ではないのだとそう感じたことを思い出したから。


 私の体から力が抜けたことを感じたのだろう。
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