ポンコツ魔女は王子様に呪い(魔法)をかける
 あの少し薄めの形のいい唇が、先日私の唇と重なり、そして色んなところへと触れたのだと考えると恥ずかしいのに目が離せなかった。


「リリ?」
「っ、な、何?」

 そんな私を不思議そうに見つめる彼は、そのまま部屋をぐるりと見渡して。

「……この部屋に、家具は置かないの?」
「あ、えーっと」

“後から請求される金額が怖くて注文出来ていません、は言ったらおかしいわよね”

 彼が私の魔法でこうなっているというのを知っているのは私だけ。
 いつかは解けてしまうこの状態を思い浮かべた私は、チクリと胸の奥が傷んで首を傾げた。 

 
「……まだ、どんな部屋にするか迷ってて。ほら、魔女は興味があることには逆らえないから、一番興味のある家具とか色とかで統一したいなぁ、みたいな」

“我ながら苦しい……!”

「んー、ならリリが気になる家具を見に行く?」
「えっ!」

 それはまずい。

“万一本当に気になる家具を見つけてしまったら、この部屋に置いてしまうかもしれないわ!”

 私の脳裏を多額の請求書が過り、じわりと額に冷や汗が滲む。 
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