ポンコツ魔女は王子様に呪い(魔法)をかける
「実は伝える合図がある?」
「はずれ」
「んー、じゃあ元々顔見知りだった!」
「ははっ、半分正解かな」
「半分かぁ~」
「この店は」

 まるで内緒話をするようにそっと耳元へ顔を近付けられた私の心臓がドキリと跳ねる。

 そんな私たちの間に割り込むように背後からコホンと咳払いが聞こえた。


「本日は足をお運びいただき誠にありがとうございます、殿下」
「あぁ、こちらこそ突然すまなかったね」

 先ほど店の奥へ消えた女性が紺色のドレスを何着か抱えて戻り、そしてそんな彼女と一緒に現れた一際優雅なマダムがメルヴィへと一礼した。

「実はこの店はね、王族御用達のお店なんだよ」

“だからメルヴィの顔を知っていたのね”

 ネタバラシされてしまえば割とすぐにわかりそうな答え。
 けれども、ちょっとした謎の解を得ただけでも私の魔女の性は満たされたように感じた。


「そちらのご令嬢のドレスをお求めでしょうか?」
「本当はオーダーメイドにしたいんだけどね。けれど、ここなら一級の新作、それも一点ものが手に入るだろう?」
「重い、重いんですけど新作一点物! しかも王族御用達の高級店のとかっ」
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