奪われたオメガは二つの運命に惑う
4.番われたオメガ
「リディ、ね、リディ。そろそろ、噛みたい。いい? ね、首輪とっていい?」
甘ったるい声でねだりながら、ガエルはリディを責め立てる。今のリディはうつぶせにされたまま、その背中に口づけられているところだった。
「……あ、ガエル、が……私の、番……に?」
その事実を、二時間かけて、リディは身体に直接叩きこまれた。優しく優しく身体を暴かれ続けたこの時間を通してなお、まだリディの本能はガエルを求めている。初恋を捨てなければならないという悲しさも、両親を騙してジェラルドとしてここにやってきた彼の嘘も、全てがもうどうでもいい。
「そうだよ、僕のリディ……いいでしょう?」
首輪はしていたものの、その鍵はこの部屋に入る前からつけられていなかった。だというのに、ガエルはリディが頷くまで、それを外したりせずにずっと待っていてくれたのだ。リディが自らうなじを差し出してくれるのを。
それがわかって、リディは胸がきゅうっと締め付けられる。
「うん、わか……った」
リディはそう答えて、首輪を外すために手をやった。
「っ好きだよ、リディ」
「ひゃぁんん……っ」
首輪を外すその瞬間にガエルとリディは同時に果てる。
(あつ、い……)
中にガエルのものを受けとめて、ようやくリディは発情が治まった。長い時間の責めに、もう身体は限界だった。初めての発情のときと同様に、彼女はそのまま意識を手放す。
「がえ、る……」
首輪を外せないままに、リディは目を閉じた。
その時だった。
「困ります……!」
「離せ! おい! ガエル!」
乱暴な足音がしたかと思えば、叫び声とともに激しい音をたててドアが開かれた。乱入してきたのはジェラルドである。
彼の目に映ったのはあられもない姿でまぐわっていたリディとガエルの姿だった。
「お前……っ!」
低く唸ったジェラルドは部屋に踏み込むと、ガエルの身体をベッドから引きずり降ろして殴りかかる。
「キャアアア……ッ! ひ、ひとを呼んできます……!」
後ろからついてきていたメイドが悲鳴をあげて、逃げるように走り去っていく。しかしそんな騒動の最中、意識を失っているリディは気づきもしなかった。頬をしたたかに殴られたガエルは、口の端から血を流したが、ふっと笑む。その顔に苛立ったように腕を振り上げて、ジェラルドは止まった。
「お前……俺を出し抜いて、リディを手籠めにして……それで俺の邪魔をしたつもりか? 俺の番を……クソッ」
ぱっと手を離して、ジェラルドはリディの様子を確認するべく、ベッドに寄り、彼女の身体に目線を走らせる。彼女の身体のあちこちに、ガエルが彼女を愛した痕が残されている。歯ぎしりしたジェラルドは、彼女の身体に布団をそっとかけた。
「なんでこんなことをした……? いくらお前がリディを気に入ってたからって……こんなこと、許されるはずがないだろう」
「勘違いしてるみたいだけどさ、リディはジェラルドの番じゃないよ」
「馬鹿を言うな。お前だって見ただろう。リディは俺に触れて発情したのを」
眉間に皺を寄せたジェラルドに笑んで見せながら、ガエルは立ち上がってベッドの脇に落ちていたズボンを拾い上げてのんびりと服を着始めた。
「あのときってさ、僕も近くにいたでしょ? リディはね、僕に発情してたんだよ」
「そんなことあるわけ」
「だって、さっきも僕に発情してくれたんだから」
「は……?」
遮られてのセリフに、ジェラルドが固まる。
「甘い甘い香りを振りまいてね。ジェラルドに邪魔されて番えなかったけどさ、リディだってちゃんと僕を運命の番だって認めてくれて、僕にうなじを見せてくれようとしてたんだよ?」
ちら、とガエルが送った目線で、ジェラルドは彼女の首輪が取れかかっていたことに気づく。
「そんな……」
「残念だったね、ジェラルド。リディは僕が先に見つけた、僕の番だ。わかったら、出て行ってくれる?」
運命で結ばれる二人を邪魔したのは、ジェラルドのほうだったのだ。それを突きつけられて、いつも快活なはずの彼の顔が暗くなる。
「……わかった」
そう言って、ジェラルドは二人を部屋に残して出て行った。
***
乱入したことをリディに謝罪をしたいと、ジェラルドからの申し出があったのは、その翌日のことだった。婚約は改めてガエルと結ぶことになったため、先に申し出ていたジェラルドをないがしろにする形になる。謝罪すべきはアンベール家側のほうだろうが、『運命の番なら仕方がない』というのは世間の見方だ。
謝罪は不要だと知らせたが、それを無視してジェラルドはやってきた。応接室に迎え入れられた彼は、テーブルを挟んでリディと向かい合わせに座っている。もちろんアルファであるジェラルドとふたりきりにするわけにもいかないので、リディのそばにはメイドが付き添っていた。そしてもちろん、今日も首輪を彼女はつけている。
「あの……この間は、見苦しいところを見せたらしくて、ごめんなさい」
そわそわと落ち着かないリディが言えば、ジェラルドは快活に笑ってみせた。
「いや、俺のほうこそ悪かった。……運命の番だなんて勘違いして、俺と番っていたら、ガエルもリディも、辛い想いをするところだったな……初恋が俺だったと聞いて嬉しかったんだが……」
明るく笑ってはいるものの、その顔に影をみつけて、リディは胸が痛む。初恋は確かに彼だった。この明るく男らしい口調も、快活な笑顔も変わっていない。初恋の思い出は未だリディの胸の中にはあるが、先日ガエルと肌を重ねて、いやでも彼女が求めているのはガエルだと判らされてしまったのだ。それに、まだ番ってはいないとはいえ、あのとき心からリディはうなじを噛まれることを望んでいた。
初恋は実らない。結局はそういうことなのだろう。
「……ごめんなさい」
ティーカップを持ち上げてお茶を飲もうと思ったものの、リディは罪悪感で口をつける前に降ろして謝罪する。
(こんなことになるなら、初恋だなんて言わなければよかった……。ジェラルドさんはガエルの双子だもの。これから彼とも家族になるのに……)
「謝らないでくれ。リディが悪いんじゃない」
カップに触れたままのリディの手を、ジェラルドがそっと触れて包みこむ。
「ごめんなさい、こういうことは……あ……っ?」
触れられた瞬間に、どくん、と心臓が跳ねた。同時に、リディの身体の奥が疼いて、甘い香りが漂い始める。
「ど、して……?」
今目の前にいるのは、確かにジェラルドだ。至近距離で話していてなお、彼のことはしっかりとジェラルドだと認識できる。顔が同じだとはいえ、ガエルとジェラルドは全然違う。なのに、彼女は今、発情していた。
「お嬢様?」
異常に気づいたメイドがリディの身体を支える。
「俺に……発情してくれているのか?」
ぎゅうっとリディの手を強く握りこんだジェラルドは、口を歪ませて笑った。それはいつもの快活な笑みとは違う、底意地の悪い笑みだ。
「おい、わかるな。リディは俺に発情してる」
「そ、んなはず……だ、って今日も……薬、飲んで……」
「お前の運命の番が、俺だからだろう? だから、発情してるんだ」
(どうして?)
この間は確かにガエルに触れられて発情した。だというのに、今はジェラルドに触れられて発情している。ならば、先日だってジェラルドに発情していたというのか。
「わた、わたし……誰にでも発情しちゃう、の……?」
そんなはずはない。今まで、他のアルファに何度か会ったことはあるはずだが、彼女は一度も発情なんてしたことがなかったのに。
「そこのメイド。俺は今からリディと番う」
「だ、だめ……! 抑制薬、薬を持ってきて……! ううん、わたしが」
「お嬢様」
「リディを俺のものにする」
獰猛に言い放ったジェラルドは、メイドの腕をつかんで部屋の外へと引きずりだす。男の力で引きずられれば、メイドはひとたまりもなかった。
「やめてください……! お嬢様!」
「邪魔をするな」
ばたん、とドアを閉じて、ジェラルドは部屋の鍵を閉めてしまった。
「お嬢様! お嬢様! ……人を呼んでまいります!」
そう叫んで、メイドはバタバタと走り去る。それを確認したジェラルドは、ソファにもたれかかったリディを振り返ってゆっくりと近づいてくる。
「ジェラルド、さん……やめて、ください。薬を、薬を飲めば、発情はおさまります……から……」
もはや、ジェラルドが運命の番かどうかなんて関係ない。すでにリディはガエルに純潔を捧げているのだ。いまさら運命がジェラルドだと言われたとしても困る。どのみちガエルと番ってしまえば、運命の番だろうと、他のアルファに発情することはなくなるのだ。だからもう、リディはガエルに嫁ぐことを心に決めている。
この状況はどう考えても、まずい。
「リディは俺のものだ」
有無を言わさず、リディはソファにうつ伏せに引き倒される。もちろん首輪はしているから、彼女のうなじが噛まれることはない。そのはずだった。
「は……邪魔だな」
皮でできたそれを、ジェラルドは乱暴に手をかける。ぶ厚い首輪は普通なら千切れなどしない。だが、彼はナイフを懐から取り出した。
「いや、何をしてるんですか? やめて……!」
鍵を無視してナイフで首輪を切ったジェラルドは、満足そうに喉を鳴らした。
「ああ、ちょっと血が出たか? でもすぐ気持ちよくなる」
「やめて、ジェラルドさ……いやっ」
暴れて逃げようとしたリディを背中から押さえつけ、ジェラルドは彼女のうなじに唇を寄せた。
「お前は、俺の女だ」
「あああああああっ!」
ぐっと歯をつきたてられる。その強い衝撃に、リディは叫び声をあげた。身体の奥の奥に、リディは無理やりジェラルドが番であると植え付けられる。
「ああ、綺麗に痕がついたな。これで、本当にリディは俺のものだ」
「……うそ……」
こんなにもあっけなく、乱暴に、リディのうなじは、ジェラルドに噛みつかれた。リディの意志など無視して、彼女は無理やりに奪われたのだ。
甘ったるい声でねだりながら、ガエルはリディを責め立てる。今のリディはうつぶせにされたまま、その背中に口づけられているところだった。
「……あ、ガエル、が……私の、番……に?」
その事実を、二時間かけて、リディは身体に直接叩きこまれた。優しく優しく身体を暴かれ続けたこの時間を通してなお、まだリディの本能はガエルを求めている。初恋を捨てなければならないという悲しさも、両親を騙してジェラルドとしてここにやってきた彼の嘘も、全てがもうどうでもいい。
「そうだよ、僕のリディ……いいでしょう?」
首輪はしていたものの、その鍵はこの部屋に入る前からつけられていなかった。だというのに、ガエルはリディが頷くまで、それを外したりせずにずっと待っていてくれたのだ。リディが自らうなじを差し出してくれるのを。
それがわかって、リディは胸がきゅうっと締め付けられる。
「うん、わか……った」
リディはそう答えて、首輪を外すために手をやった。
「っ好きだよ、リディ」
「ひゃぁんん……っ」
首輪を外すその瞬間にガエルとリディは同時に果てる。
(あつ、い……)
中にガエルのものを受けとめて、ようやくリディは発情が治まった。長い時間の責めに、もう身体は限界だった。初めての発情のときと同様に、彼女はそのまま意識を手放す。
「がえ、る……」
首輪を外せないままに、リディは目を閉じた。
その時だった。
「困ります……!」
「離せ! おい! ガエル!」
乱暴な足音がしたかと思えば、叫び声とともに激しい音をたててドアが開かれた。乱入してきたのはジェラルドである。
彼の目に映ったのはあられもない姿でまぐわっていたリディとガエルの姿だった。
「お前……っ!」
低く唸ったジェラルドは部屋に踏み込むと、ガエルの身体をベッドから引きずり降ろして殴りかかる。
「キャアアア……ッ! ひ、ひとを呼んできます……!」
後ろからついてきていたメイドが悲鳴をあげて、逃げるように走り去っていく。しかしそんな騒動の最中、意識を失っているリディは気づきもしなかった。頬をしたたかに殴られたガエルは、口の端から血を流したが、ふっと笑む。その顔に苛立ったように腕を振り上げて、ジェラルドは止まった。
「お前……俺を出し抜いて、リディを手籠めにして……それで俺の邪魔をしたつもりか? 俺の番を……クソッ」
ぱっと手を離して、ジェラルドはリディの様子を確認するべく、ベッドに寄り、彼女の身体に目線を走らせる。彼女の身体のあちこちに、ガエルが彼女を愛した痕が残されている。歯ぎしりしたジェラルドは、彼女の身体に布団をそっとかけた。
「なんでこんなことをした……? いくらお前がリディを気に入ってたからって……こんなこと、許されるはずがないだろう」
「勘違いしてるみたいだけどさ、リディはジェラルドの番じゃないよ」
「馬鹿を言うな。お前だって見ただろう。リディは俺に触れて発情したのを」
眉間に皺を寄せたジェラルドに笑んで見せながら、ガエルは立ち上がってベッドの脇に落ちていたズボンを拾い上げてのんびりと服を着始めた。
「あのときってさ、僕も近くにいたでしょ? リディはね、僕に発情してたんだよ」
「そんなことあるわけ」
「だって、さっきも僕に発情してくれたんだから」
「は……?」
遮られてのセリフに、ジェラルドが固まる。
「甘い甘い香りを振りまいてね。ジェラルドに邪魔されて番えなかったけどさ、リディだってちゃんと僕を運命の番だって認めてくれて、僕にうなじを見せてくれようとしてたんだよ?」
ちら、とガエルが送った目線で、ジェラルドは彼女の首輪が取れかかっていたことに気づく。
「そんな……」
「残念だったね、ジェラルド。リディは僕が先に見つけた、僕の番だ。わかったら、出て行ってくれる?」
運命で結ばれる二人を邪魔したのは、ジェラルドのほうだったのだ。それを突きつけられて、いつも快活なはずの彼の顔が暗くなる。
「……わかった」
そう言って、ジェラルドは二人を部屋に残して出て行った。
***
乱入したことをリディに謝罪をしたいと、ジェラルドからの申し出があったのは、その翌日のことだった。婚約は改めてガエルと結ぶことになったため、先に申し出ていたジェラルドをないがしろにする形になる。謝罪すべきはアンベール家側のほうだろうが、『運命の番なら仕方がない』というのは世間の見方だ。
謝罪は不要だと知らせたが、それを無視してジェラルドはやってきた。応接室に迎え入れられた彼は、テーブルを挟んでリディと向かい合わせに座っている。もちろんアルファであるジェラルドとふたりきりにするわけにもいかないので、リディのそばにはメイドが付き添っていた。そしてもちろん、今日も首輪を彼女はつけている。
「あの……この間は、見苦しいところを見せたらしくて、ごめんなさい」
そわそわと落ち着かないリディが言えば、ジェラルドは快活に笑ってみせた。
「いや、俺のほうこそ悪かった。……運命の番だなんて勘違いして、俺と番っていたら、ガエルもリディも、辛い想いをするところだったな……初恋が俺だったと聞いて嬉しかったんだが……」
明るく笑ってはいるものの、その顔に影をみつけて、リディは胸が痛む。初恋は確かに彼だった。この明るく男らしい口調も、快活な笑顔も変わっていない。初恋の思い出は未だリディの胸の中にはあるが、先日ガエルと肌を重ねて、いやでも彼女が求めているのはガエルだと判らされてしまったのだ。それに、まだ番ってはいないとはいえ、あのとき心からリディはうなじを噛まれることを望んでいた。
初恋は実らない。結局はそういうことなのだろう。
「……ごめんなさい」
ティーカップを持ち上げてお茶を飲もうと思ったものの、リディは罪悪感で口をつける前に降ろして謝罪する。
(こんなことになるなら、初恋だなんて言わなければよかった……。ジェラルドさんはガエルの双子だもの。これから彼とも家族になるのに……)
「謝らないでくれ。リディが悪いんじゃない」
カップに触れたままのリディの手を、ジェラルドがそっと触れて包みこむ。
「ごめんなさい、こういうことは……あ……っ?」
触れられた瞬間に、どくん、と心臓が跳ねた。同時に、リディの身体の奥が疼いて、甘い香りが漂い始める。
「ど、して……?」
今目の前にいるのは、確かにジェラルドだ。至近距離で話していてなお、彼のことはしっかりとジェラルドだと認識できる。顔が同じだとはいえ、ガエルとジェラルドは全然違う。なのに、彼女は今、発情していた。
「お嬢様?」
異常に気づいたメイドがリディの身体を支える。
「俺に……発情してくれているのか?」
ぎゅうっとリディの手を強く握りこんだジェラルドは、口を歪ませて笑った。それはいつもの快活な笑みとは違う、底意地の悪い笑みだ。
「おい、わかるな。リディは俺に発情してる」
「そ、んなはず……だ、って今日も……薬、飲んで……」
「お前の運命の番が、俺だからだろう? だから、発情してるんだ」
(どうして?)
この間は確かにガエルに触れられて発情した。だというのに、今はジェラルドに触れられて発情している。ならば、先日だってジェラルドに発情していたというのか。
「わた、わたし……誰にでも発情しちゃう、の……?」
そんなはずはない。今まで、他のアルファに何度か会ったことはあるはずだが、彼女は一度も発情なんてしたことがなかったのに。
「そこのメイド。俺は今からリディと番う」
「だ、だめ……! 抑制薬、薬を持ってきて……! ううん、わたしが」
「お嬢様」
「リディを俺のものにする」
獰猛に言い放ったジェラルドは、メイドの腕をつかんで部屋の外へと引きずりだす。男の力で引きずられれば、メイドはひとたまりもなかった。
「やめてください……! お嬢様!」
「邪魔をするな」
ばたん、とドアを閉じて、ジェラルドは部屋の鍵を閉めてしまった。
「お嬢様! お嬢様! ……人を呼んでまいります!」
そう叫んで、メイドはバタバタと走り去る。それを確認したジェラルドは、ソファにもたれかかったリディを振り返ってゆっくりと近づいてくる。
「ジェラルド、さん……やめて、ください。薬を、薬を飲めば、発情はおさまります……から……」
もはや、ジェラルドが運命の番かどうかなんて関係ない。すでにリディはガエルに純潔を捧げているのだ。いまさら運命がジェラルドだと言われたとしても困る。どのみちガエルと番ってしまえば、運命の番だろうと、他のアルファに発情することはなくなるのだ。だからもう、リディはガエルに嫁ぐことを心に決めている。
この状況はどう考えても、まずい。
「リディは俺のものだ」
有無を言わさず、リディはソファにうつ伏せに引き倒される。もちろん首輪はしているから、彼女のうなじが噛まれることはない。そのはずだった。
「は……邪魔だな」
皮でできたそれを、ジェラルドは乱暴に手をかける。ぶ厚い首輪は普通なら千切れなどしない。だが、彼はナイフを懐から取り出した。
「いや、何をしてるんですか? やめて……!」
鍵を無視してナイフで首輪を切ったジェラルドは、満足そうに喉を鳴らした。
「ああ、ちょっと血が出たか? でもすぐ気持ちよくなる」
「やめて、ジェラルドさ……いやっ」
暴れて逃げようとしたリディを背中から押さえつけ、ジェラルドは彼女のうなじに唇を寄せた。
「お前は、俺の女だ」
「あああああああっ!」
ぐっと歯をつきたてられる。その強い衝撃に、リディは叫び声をあげた。身体の奥の奥に、リディは無理やりジェラルドが番であると植え付けられる。
「ああ、綺麗に痕がついたな。これで、本当にリディは俺のものだ」
「……うそ……」
こんなにもあっけなく、乱暴に、リディのうなじは、ジェラルドに噛みつかれた。リディの意志など無視して、彼女は無理やりに奪われたのだ。