【コンテスト作品】初めての恋の相手はファーストキスを奪った御曹司でした。


 私と百合原さんの初めてのデートは、ピクニックだった。
 デートしようと言われて決めた場所は、ずっと行きたかったピクニックだった。
 でもあの日のピクニックで、私は百合原さんとの距離がまた少しだけ縮まったような気がした。

 あの日私は、百合原さんと二度目のキスをした。でもその時私は、なぜか無意識に目を閉じていた。
 最初にファーストキスを奪われたあの時、目を閉じるものだと言われたことを思い出したからなのかは、分からない。

「偉いな。今度はちゃんと、目を閉じてたな」

 そう言われた時のあの百合原さんの笑顔を、私は多分ずっと覚えると思う。
 
「……あ、あのっ」  

「ん?」

「今日は楽しかった……ですか?」

 私にはまだ、デートが楽しいという気持ちはよく分からない。でももし、百合原さんが楽しかったと思ってくれたら、嬉しいなって思った。

「俺は楽しかったよ、すごく。 奏音は?」

「……楽しかったのかは、分かりません。でも……なんか、心が晴れて明るくなった気がしました」

 これは私の本音だ。私が本当に思ったこと。

「それならよかった」

「え……?」

「奏音が少しでも楽しい気持ちになれたなら、よかったよ」
< 22 / 53 >

この作品をシェア

pagetop