【コンテスト作品】初めての恋の相手はファーストキスを奪った御曹司でした。


「もしもし……百合原さん、ですか」

 私は百合原さんに電話をかけた。

「奏音? 電話なんて珍しいな。どうした?」

 電話越しの百合原さんの声は、いつもみたいに優しく感じた。

「あの……私、百合原さんに、話したいことがあって……」

 私がそう告げると、百合原さんは「ちょうどよかった。俺も実は、奏音に話したいことがあるんだけど」と言われた。

「え……話したいこと、ですか」

 百合原さんの話したいこととは、何なのだろうか……。想像がつかない。

「そう、今夜会える?」

「……はい。あの、時間作ります」

「よかった。ありがとう」
 
「いえ……」

 私の話したいことを、百合原さんは受け入れてくれるのかすら分からない。 でも本気の恋をしようと言ってくれたのは、百合原さんだ。
 本気の恋とは、相手を愛おしいと思う気持ちだと、百合原さんは教えてくれた。
 私はその気持ちに、正直気付きたくないとも思う。 多分気付いてしまったら、後には戻れなくなりそうだから。

 だから今のうちに、後戻りが出来るうちに、後戻りをしたい。 私なんて、百合原さんの隣にいる資格なんてないのだから。
 こんな恋愛未経験な私の隣にいても、きっと彼は楽しくなんてないーーー。
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