【コンテスト作品】初めての恋の相手はファーストキスを奪った御曹司でした。
「新しい新作のケーキを試作した。試食してくれないか」
そう言われて俺は、思わず親父に「俺は甘いもの、苦手だと言ってるでしょう」と言葉を返す。
「じゃあ誰かに試食させなさい。 誰かいないのか、食べてくれる人」
食べてくれる人ね……。そんな人は、いない……ん? なんだ、一人いるじゃんな。
「まあ、いますけど一人」
「いるなら、その人に試食してもらって、感想を聞いてきてくれないか」
「いいですよ。今日、その人と会う約束をしてるので」
奏音は甘いものが好きだと言っていた。特にガトーショコラやタルトが好きらしく、試食でも持っていったら喜んでくれそうだ。
「所で久遠」
「今度はなんですか」
今度は何を言ってくるのかと思いきや、「久遠は、いい人はいないのか」と聞いてくる。
「なんですか、突然」
「久遠ももういい歳だろう?好きな人の一人や二人、いないのか?」
「好きな人は一人だけで充分です。二人もいたら、その人を悲しませてしまうでしょう」
親父は俺の将来をとても心配しているが、余計なお世話だと思っている。
「なんだ、いるのか?」
「まあ、いますよ。……でもまだ、そこまでの関係ではないですけどね」
「そっか、いるのか」