【コンテスト作品】初めての恋の相手はファーストキスを奪った御曹司でした。
親父はクリームを絞りながら、「いるなら早く結婚してくれると、助かるんだけどな。 おまえには俺の店を継いでもらわないと困るからな」と愚痴をこぼす。
「結婚なんて慌ててするものではないでしょう。相手のこともあるし」
「まあ、そうだな。結婚して子供が出来たら、すぐに教えるんだぞ」
「余計なお世話ですよ」
父親はきっと、母の分まで幸せになってほしいと願っているのだろうとは思う。
「そうだ。明後日から出張に行ってくる」
「出張?」
「ああ、新しいチョコレートの仕入れにな」
「またチョコレート変えるのか?」
「ああ、チョコレートの配合をな」
親父はチョコレートにとてもこだわっていて、わざわざ現地まで仕入れに定期的に行っている。
仕入れのために出張には行くが、そのチョコレートにこだわっているからこそ、金賞を取ったという事実は大きいとは思う。
あのガトーショコラも何度も何度も試作を繰り返し、失敗を重ねて仕上がった最高のガトーショコラだからだ。
俺は甘いものが苦手だが、あのガトーショコラだけはとても食べやすくて好きだ。 親父が作って、材料にこだわったからこそ出来た最高の味だと思っている。
だからこそ、うちの店の看板商品になった。