【コンテスト作品】初めての恋の相手はファーストキスを奪った御曹司でした。
親父は「俺は久遠が選んだ人なら、喜んで応援するけどな」と俺を見る。
「は? なんだよ、気持ち悪いな」
とか言いつつ、親父がこんなことを言うなんて思ってもなかった俺は、少し驚いた。
「……久遠」
「なんだよ」
ふと親父を見ると、親父は「お前はいずれ、この店を継ぐことになるだろう。 だけど、お前はケーキ屋の息子って肩書きは好きじゃないんだろうなって思う」と話しだした。
「……なんだよ、急に」
こんな親父、初めてかもしれない。 今まで見たこともない、親父な気がする。
「この店は継いでほしいと俺も思ってる。 でもな、それでお前を縛りたくないんだよ、俺は」
「安心しろ。ちゃんと店は継ぐし、継ぐ気は俺にもある。……それにこの店は、親父にとっても大切な店だろ?」
「……久遠」
親父にとってこの店は、ずっとずっと守りたいものだって分かっている。この店は、何よりも大切なものだから。
「それに……俺もこの店のケーキは、愛する人に食べてほしいと思うから。 愛する人が食べる姿を、見てたいと思うんだ」
そう言った俺に、親父は「久遠、お前も知らない間に、いつの間にか大人になってたんだな」と微笑む。
「は?」
「幸せになれ、久遠」