【コンテスト作品】初めての恋の相手はファーストキスを奪った御曹司でした。


 親父がそう言ってたあの顔を、俺はきっと忘れないだろう。

「久遠、新作ケーキの試食頼んだ」

「……おう、分かった」

 甘いものは得意ではない。 だけど親父のケーキは美味いと思う。
 甘いものが苦手な俺でも、親父のケーキだけは好きだと思える。
 親父の作ったケーキを食べている人の顔を見ると、嬉しい気持ちにもなるし、幸福感も感じられる。

「……ん、美味い」

「ちょっと甘いか?」

「でも、甘さは控えめだよ。 俺には確かに、甘い気がするけど」

 けど親父のケーキは、世界一美味いと思う。親父がいつも一生懸命考えて作り出したケーキは、見た目も美しいし、味も最高に美味い。
 親父のケーキを誰よりも好きなのは、きっと母さんだろう。 母さんは親父と一緒にケーキ屋をやることをとても楽しみにしていたから。

「お前はなんでケーキ屋の息子なのに、甘いものが苦手なんだろうな」

「それは親父のせいだろ」

 親父が毎日のようにケーキを食べさせるから、甘いものが苦手になった。

「あ、俺のせいか」

「そうだろ、どう見ても。あんなに毎日ケーキ食べさせられたからな」

「そうかそうか」

 でも俺は、そんな親父の背中を見て、すごいと思っていたんだ。今でも、尊敬している。


【久遠Side】
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