【コンテスト作品】初めての恋の相手はファーストキスを奪った御曹司でした。


 純粋に素敵な名前だなって思った。

「久遠って呼んでくれて構わないから」

「え、いや、それは出来ません」

 私の言葉に何かが引っかかったのか、百合原さんは「はっ?」と顔をしかめる。

「初対面の人を名前で呼ぶなんて、出来ません。私たち友達でも、恋人でもないので」

 そう言った私の言葉を、百合原さんは笑った。

「え、なんで笑うんですか?」

「ごめんごめん。奏音は面白いな」

「はい?」

 なにも面白いことなんて、言ってないと思う。

「確かに俺たちは友達でもないし、恋人でもないな。 でももうこうして出会ったんだから、友達みたいなものだろ?」
 
「と、友達……?」

 私はこの人と友達になんてなれない気がする。

「そう、だから俺は奏音って呼ぶよ」

「……図々しいです」

「そんな堅いこと言うな、奏音」

「な、名前で呼ばないでくださいっ」

 いきなり名前で呼ぶとか……何なのだろうか。

「なあ、奏音ってさ、まさか……」

「な、なんですか」

「……恋愛、したことない?」
  
「えっ……?」

 まさか、初対面の男に見抜かれてしまうなんて思わなかった。
 気付かれることも、ないと思っていた。

「やっぱ図星?」
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