偽物の天才魔女は優しくて意地悪な本物の天才魔法使いに翻弄される
彼は相手にしないけど
翌日の魔法学の授業で、最後に抜き打ちの調合テストが行われた。
調合室で皆、緊張しながら自分の課題に取り掛かる。オリビアも同様に、慎重に調合を進めていった。
今回のテストは、これまでの復習のテストではなく、先生の出すお題に対しての即興での調合だった。
オリビアは、前回の調合テストでは失敗していた。即興や応用というものがどうも苦手で、テストまでの時間にしっかり勉強する時間が無ければ、自信が持てない。
今回も、例のごとく不安な中作業を進めた。
「──そこまで!」
成功か失敗かは、最後に先生が判定する。オリビアが緊張しながら合否を待っていると、離れた席の方で先生が驚いた声を出した。
「ヤーノルドさん!あなた、こんな調合の仕方、習ってないでしょう?」
クラスの視線がハヤトに集まる。先生は困惑した様子だ。
「これは……この方法は、つい先日、魔法学会で発表されたものです。なぜ、あなたが知っているんですか?授業ではまだ扱っていないはずですが……」
ハヤトが答える。
「あぁ、すみません、先生。テストに使う材料が足りない事に気付いて、自分で工夫してみたんです」
ハヤトはなんでもない事のように言った。
「さすがだわ、ヤーノルドさん。先生に報告する事も出来たのに、よく自分で工夫して調合を成功させましたね。それにしても、材料が足りない?おかしいわね、授業の前に、私が揃えたはずですよ」
先生が不思議がっていると、1人の生徒が手を挙げた。
「誰かが盗んだんじゃないですか?」
女子生徒だ。
先生は、あんぐりと口を開けた。
「まさか……そんなこと……」
「いいえ、先生。ハヤトくんの机をご覧下さい。これは明らかに元から薬草が置いてあった跡があります」
見ると、確かにハヤトの調合台には、丸い瓶の跡が残っていて、その周りには少量の薬草が散らばっている。
先生がそれを確認すると、クラス内が一気に緊迫した空気に包まれた。
「……本当だわ。一体誰が……」
「先生。僕、構いませんよ。犯人探しは好きじゃない」
ハヤトは落ち着いた声で言ったが、先生は首を横に振った。
「しかし、もしこれが故意なら、あなたの成績を操作しようとしている生徒がいるということになるのですよ。間違いなのかどうなのか、本人に確認せねば」
「大丈夫。僕がこんなちんけな嫌がらせに負ける訳がないでしょう」
「……分かりました。ヤーノルドさん。あなたの実力を信じて…」
先生が納得して、話を終わらせようとした時だった。