偽物の天才魔女は優しくて意地悪な本物の天才魔法使いに翻弄される
日頃の行いが悪いのに
その時、ハヤトが声を上げた。
「先生、オリビアは犯人ではありません」
「え………?」
オリビアは、目を開けてハヤトを見た。
クラスメイト達もハヤトに注目する。ハヤトはオリビアの隣まで歩いてきた。
「どうしてそう言えるのですか?」
先生がハヤトに尋ねた。
ハヤトは一息つくと、オリビアの目を見ながら言った。
「僕は、オリビアがどんな気持ちで僕に挑んでいるのか知っています」
ハヤトの言葉に、オリビアは目を見開く。
「オリビアは、努力家です。確かに僕の成績に嫉妬していますが、正々堂々と勝負しようとしています。そして、誰よりもストイックで真面目に勉強に取り組んでいます。そんなオリビアが、たかだか練習のテストで僕を陥れようとするはずがない」
「ハ…ヤト………」
「努力?オリビアっていつ勉強してたの?」
努力家、という言葉に、さらに教室がざわついた。オリビアが努力している所を、今まで見た者はいなかった。
「──それに」
ハヤトがオリビアの調合鍋を覗き込む。
「これは、失敗です」
「えっ!?」
オリビアが、つられて鍋を見る。真っ黒だ。
「もし彼女が僕の材料を盗んでいたとしたら、この鍋にはその材料が使われ、完璧に仕上がっているはずだ。この実は入れれば入れる程調合の成功確率が上がるのだから。証拠を隠すのなら、入れない理由が無い」
オリビアは、失敗した事実を皆にさらされ、顔を真っ赤にしている。
「ね、先生。オリビアは違うと思いますよ」
ハヤトはにっこり笑った。先生は頷き、オリビアへ言った。
「そうですね。私たちの考えが間違っていたようです。ごめんなさいね、ポットさん」
「いえ、私は大丈夫です」
オリビアは小さな声で答える。
「先生、僕はこの通り、調合を成功させました。犯人探しは、しなくても大丈夫ですよ」
「さすがね、ヤーノルドさん。あなたの言うとおりね。皆、ポットさんを疑い過ぎましたね。反省しましょう。テストは次回の授業に持ち越します」
先生は、授業を切り上げて教室を出た。
クラスは静まり返り、オリビアをチラリと見て、気まずそうにしていた。その後、何人かはまだオリビアを疑っていたが、ほとんどはオリビアに謝罪した。
「…オリビア、疑って悪かったよ」
「ごめんね」
「いいのよ。疑いが晴れて、良かった…あ、あの、ハヤト…かばってくれて…」
オリビアがハヤトにお礼を言おうとした時、
「でも、君、調合失敗したんだね」
ハヤトが空気を読まずにオリビアを茶化した。真っ黒の液体を見てニヤニヤしている。
「…………!!!」
オリビアの顔がみるみると赤く染まる。
「う、うるさいわね!ちょっと焦ってしまっただけよ!!」
「あはは、そうだよね。やっぱり君は犯人じゃないよ。君が犯人だったら、もっと証拠が残ってそうだしね」
「何よそれ!馬鹿にしてるの?」
「うん、してる」
「………………!!」
(な、何よ!せっかく、素直に感謝しようとしてたのに…!!わざわざ皆の前で言わなくたって…!!)
オリビアはこれ以上の恥ずかしさに耐えきれず、怒りながら調合室を出て行った。その後ろ姿を彼に優しく見守られていた事にも気付かずに。