偽物の天才魔女は優しくて意地悪な本物の天才魔法使いに翻弄される
高評価の魔法薬
オリビアは魔法薬を机に置いた。小瓶が割れそうな勢いで叩きつける。
「……………帰ります」
「ねぇオリビア」
「嫌。絶対飲まないからね」
急いでノートをカバンに詰め込む。慌てすぎて、上手く入らない。
「オリビア、ノート曲がっちゃうよ」
「うるさい!」
なんとか身支度を整えてハヤトの横を通り過ぎようとするも、腕を掴まれた。
「これさ、飲んでみてよ」
ハヤトはニヤリとして言った。
「やっぱり!嫌だってば!!」
オリビアは抵抗するが、ハヤトの力の方が強く逃れられない。
「やめてよ!」
「大丈夫だよ。毒じゃないし。さすがにこれを僕に飲ませようとした人も、毒を入れる程の勇気は無かったみたいだ」
「嫌!本当に無理!あなた、頭おかしいんじゃないの!」
「お願い、早く飲んでね」
「だ、誰か!……んぐっ!?」
ハヤトがオリビアの後頭部を押さえつけ、口に親指を入れてこじ開けた。隙間から薬を流し込む。
「はい、ごっくん」
「……っはぁ……はぁ……はぁ……っ!いやぁ!!」
オリビアは必死に抵抗して、ハヤトを遠ざけた。
「っ!やめなさいよ!」
「もう遅い。飲み込んじゃったね」
「はぁ……何してるの…?最低よ……」
オリビアは呆然とした。最悪。最低。なんで私がこんな目に遭わないといけないの。
軽蔑する間もなく、途端に、体に異変が起きる。
「っ!!?」
胸を押さえる。息が苦しい。心臓がドキドキしてくる。全身が脈打つようにドクンドクンと振動していた。
「……はぁ…っはぁ……」
「効いてる効いてる」
他人事のように面白がるハヤト。
「はぁ……ちょっと……待ってよ……これって、本当に、まずいんじゃない……?」
「大丈夫。ちゃんと先生にも確認してもらってるから。評価も、Aだったよ。何で配ってない薬品使ってるのか聞かれたけど、僕の成績に免じて大目に見て貰ったんだ」
「何が大丈夫……なの……」
呼吸が荒くなる。体が言うことを聞かない。足が震える。力が入らず、そのまま床にへたれこんだ。
(信じられない…授業の時からこんな事考えてたの!?)
ぐらつく体を彼に支えられる。
「触らな……はあ……うぅ……はぁ……っ」
苦しそうにうずくまるオリビアを、ハヤトは横抱きに持ち上げた。
「やっ………」
「僕の部屋に、解毒剤があるんだ。こういう時の為に、いくつか用意してあるんだよ。今みたいに、間違って怪しい魔法薬なんか飲んでしまった時のためにね。一緒に取りに行こう」
「さっ………最低…!!」
「ダメだよ、得体の知れない薬品なんか飲んじゃ。世話が焼けるね」
嬉しそうなハヤトに、まっすぐ宿舎へ連れて行かれる。
オリビアは後悔した。さっき、割ってしまえば良かった。この男の頭に投げつけて。