偽物の天才魔女は優しくて意地悪な本物の天才魔法使いに翻弄される

図書館の外へ



少しして学校は冬休みを迎え、宿舎に住む生徒は実家に帰るなどして年末を過ごした。オリビアも地元で家族との休みを楽しんだが、その間ずっとハヤトとのことが頭から離れなかった。

結局、誰にも相談する事は出来なかった。嫌いにはなりきれないものの、ハヤトの度を超えた行動には嫌気が差した。もっとゆっくり彼との関係を考えたかったオリビアは、とりあえず徹底的に避ける事に決めた。ハヤトが落ち着くのを待ってみる作戦だ。

(あんな人だと思わなかった。気持ちは嬉しかったのに、あそこまで強引なやり方じゃあ、私はついて行けないわ…)

年明けの授業からは、なるべくハヤトに関心を示さないようにした。彼がどれだけ活躍しても、以前のようにムキにならず、対抗心を燃やさないように気を付けた。
魔法のレベル差を見せつけられても、顔を背けて視界に入れない。放課後に図書館へ行っても、彼の気配がすると隠れるようにして帰った。

ある日の授業終わり、オリビアのいる普通科クラスへ、ハヤトが特別進学科からやって来た。

「オリビア、今日は図書館には行くの…」

「サラ、ナンシー、私も一緒に街へ行っていいかしら」

オリビアは、ハヤトを無視して、他のクラスメイトに声をかけた。出来るだけ、1人にならないようにしようと考えたのだ。授業で作った魔法薬をまさか飲まされるなんて事は、もう二度とあってはならない。

しかしこれは、そのためだけではない。友達が少ないオリビア自身にとっても、良いきっかけにするチャンスだった。

「いいけど…オリビア、図書館行かなくていいの?」

すでにクラスメイトには、オリビアが毎日図書館で勉強していた事がバレている。

「いいのよ。たまには私も遊びたいわ」

「分かった!でもどうだろ、オリビアは楽しめるかな…ま、いっか!遊ぼ遊ぼ!」

「…?ありがとう」

カラッとした性格のサラに受け入れて貰ったオリビアは、笑顔で友達と消えていった。1人残されたハヤトはしばらく立ち尽くしていたが、やがて諦めたように教室から出て行った。

***

オリビアは、サラ達と遊びに行ってみた。しかし結論から言うと、失敗に終わった。

確かにサラとはよく話すが、教室の中だけでの話だ。勉強の話ならいくらでも出来るが、流行りのドラマとかファッションとか、そういう話は全くと言って良いほど続かない。どれも興味が無いと言うと引かれると思い、頑張って話を合わせてみるものの、すぐに話題は尽きる。

サラは顔が広く、オリビアを色んなコミュニティに連れて行った。ただ、その中には路地裏の、いわゆるたまり場のような場所もあった。

いかつい顔をしたサラの友人たちに一応は歓迎されたものの、オリビアは終始顔を引きつらせて笑うことしか出来なかった。

それでもハヤトから逃げるために、またここまで友達付き合いが苦手な自分を認めることが出来ず、しばらく彼女たちに合わせてみたが、数日で根を上げた。ある日オリビアはナイトクラブへの誘いを断り、違う友達を誘ってみることにした。

***

ステラとクリスティは、いつも2人でいる普通科の仲良しコンビだ。ちょうど近くに新しいカフェが出来たとのことで、オリビアが勇気を出して一緒に行きたいと誘うと、快くOKしてくれた。

オリビアは2人と同じ紅茶を頼み、2人が繰り広げるテンポの良い会話に混ざろうとした。彼女たちの話に同意することで仲間に入れてもらおうとしたが、どうにも難しい問題があった。ステラたちは勉強が苦手だった。

「ほんっと、課題多くて嫌だよね。今年の先生、厳しすぎない!?」

「分かるぅ!!去年までこんなんじゃ無かったよね。ムカつく。あ、でも1年の時の先生も、かなり厳しかったよね。なんだっけ?名前…」

「マリアでしょ!あのツンケンした女!あれよりマシか。ね、オリビア」

「え、あはは…」

どんな事も、受け取り方は人それぞれである。学校の課題は精力的に取り組み、マリアの事を慕っていたオリビアにとって、同意しがたい話題になってしまった。マリアは授業中は確かに冷たく感じる部分もあるが、彼女の真剣な態度をオリビアは尊敬している。そのため、ここでも困ったような愛想笑いを浮かべることしか出来ない。つくづく自分は他の生徒と価値観が合わないのだと感じた。

次第に会話内容が、年頃の娘らしいものになっていった。彼氏がいるとかいないだの、好きな人と目が合っただの、そういった話である。

オリビアはホッとして、聞き役に回った。ステラやクリスティの恋の話は、楽しかった。手を繋いだり、初めてのキスの甘酸っぱい体験談に青春を感じる。すぐにそれ以上を求めてきたあの男とは大違いだ。

(私もこんな風に、少しずつ進展していく恋愛がしたいなぁ…経験が無い訳では無いんだけど)

オリビアもそれなりに恋をした思い出があるだけに、ハヤトの常軌を逸したアプローチが理解出来ないのであった。

そんな思いを胸にしまいニコニコと聞いていると、突然、ステラが言った。


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