偽物の天才魔女は優しくて意地悪な本物の天才魔法使いに翻弄される
強がれなくて
「それで、何の話がしたいの」
冬の野外にさらされた冷たいベンチの、なるべく端っこに座って切り出す。オリビアは全身で不機嫌さを表現した。普段は絶対にしないが、足を組み、わざとハヤトに聞こえるように舌打ちをする。しかしハヤトはまるで気にしない。どこまで露骨に嫌がれば、この男に響くのだ。
「君さ、どうしてそこまで、僕の事を避けるの」
「分からないの?あれだけの事をされて、避けない人なんていないと思うわ。通報されなかっただけありがたく思う事ね」
ハヤトの顔を見ずに、冷たく言い放つ。先生はああ言ったが、素人が自分で作った魔法薬を飲むなんて事は、大抵の生徒には恐ろしくて出来ない。ましてや、それを他人に飲ませて部屋に連れ込んだハヤトになんのお咎めも無いのは、本当は許せない。
「ごめんね。好き過ぎて、ついやり過ぎた」
隣から悲しそうな声が聞こえてくる。少しは反省したのだろうか。
「こ、困るから、やめて欲しいの。それさえ無ければ、私…」
──避けたりなんて…
「困る顔が可愛くて、もっと見たくなるんだよ」
「……あなたに反省は無理みたいね」
一瞬でも許そうとした自分を馬鹿らしく感じる。
「オリビアは最近、何してたの?凄く寂しかったんだよ。図書館にもいないし」
あなたに関係ないでしょ、と言おうとしたが、自然と口が質問に答えた。
「…遊んでいたのよ。私にだって、友達ぐらいいるわ」
「へぇ、君が。どこ行ってたんだい?」
「………今日はカフェに行ったりもしたけど…ちょっとやんちゃな子たちと遊ぶ日もあって。路地裏みたいな所とか、クラブ…とか」
オリビアは、少しずつハヤトの方へ顔を向けた。
「そ、そうか。あんまり、オリビアのイメージじゃないな」
ハヤトにはオリビアが図書館にいる印象しか無いのだろうか、意外な行き先に明らかに戸惑う表情になった。
「そうでしょ。居心地悪くて、私には合わなかったわ。皆いい人たちだけどね」
──これまで勉強ばかりだった自分の、突然の誘いも受け入れてくれる程優しい友人たちなのに溶け込めないという事は、きっと自分はどこかズレているんだ。
「君は勉強している方が楽しいんだろ」
「そうね……。やっぱり私は、あの静かな環境の方が好きよ。だけど、もう少し楽しめると思ってた…」
気が付いたら、オリビアはハヤトに本音をこぼしていた。うつむき、消え入りそうな声でつぶやくと、ハヤトは黙ってオリビアを見つめた。
向こうでさらさらと川の流れる音がする。
「そこは頑張る必要無いんじゃない?」
「え?」
オリビアはハヤトの目を見た。おだやかに笑っている。