偽物の天才魔女は優しくて意地悪な本物の天才魔法使いに翻弄される

いい雰囲気では終われない



ハヤトはオリビアを優しく励ますように言った。

「勉強は楽しいから頑張れるんだろ。好きだから魔法の練習をするんだろう。オリビアの友達は、遊ぶのが好きだから遊んでる。それだけだよ。やれなきゃいけないって訳じゃない」

「…う、うん」

「オリビアは頑張り屋だけど、友達に合わせて無理する事無いよ。君は君のままで充分素敵だ」

ハヤトに肯定され、オリビアは少しだけ微笑みを見せた。

「ええ……。ありがと」

初めはハヤトから逃げるために頑張ってみた友達付き合いだが、結局失敗し落ち込んでしまった。そんな気持ちを彼に慰めてもらい、思わず心を救われる。

「ホウキの練習、見てたよ。楽しそうだったよ」

「そうかしら。全然上手くいかなくて焦ってたの。次こそ優勝したいんだけどなぁ…」

「だから君の力になりたいんだって。一緒にやろうよ。僕の事、避けないで……」

切なげな瞳に吸い込まれそうになる。膝の上の手に重ねられた手を払いのけるのを、一瞬迷ってしまった。

ハヤトは身を乗り出した。オリビアの手を包み、顔を近づける。

「ちょ、ちょっと離れて」

我に返り、慌てて後ろに引く。

「ごめん……やっぱり、我慢できない」

彼の顔がさらに近づき、とっさに顔を背ける。

「だっ、だから!すぐそういう事しようとするから嫌だって言ってるの!さっきの謝罪は何だったのよ!」

怒って、押し返す。

「可愛い。本当に君は表情豊かだよね」

「あなたといると調子が狂うの!」

「そうだね。僕だけが君を狂わせられる」

遠ざけようと腕を突っ張り、ハヤトの胸を必死に押す。立ち上がろうとするもその手を握られ、力が込められてくる。

「本当に好きだって言うなら、もう少しやり方を考えて欲しいわ」

「それは難しい相談だね」

ハヤトの方が先に動いた。オリビアの前に素早く立ち塞がり、彼女の手を背もたれに押しつけた。

「やめてよ…」

「君を見ると、どうも抑えが効かないんだ」

ハヤトの顔がまた迫る。横に顔を背けるとそのまま首筋にキスをされ、ビクッと体を震わせた。

「いやだ、待って…!」

オリビアは抵抗したが、ハヤトの力が強く振りほどけない。もう一度同じ場所に口をつけられ、くすぐったさに声が出てしまう。

「あっ……」

「可愛い声だね……」

ハヤトはそのまま首筋に舌を這わせた。弱い場所を攻められる。

「ん、やっ……」

「好きだ……」

ハヤトは耳元で囁き、少しずつオリビアを倒そうとし始めた。

「やっ!やだ!!」

──またこの間みたいになる…!!

「ハヤト…怒るわよ!これ以上やったら、容赦しないから!!」

「怒っていいよ。もっと怒らせたいくらいだ」

わざと胸に手を当てられ、オリビアの堪忍袋の緒が切れた。

「こ、この変態…!!」

胸を触る手を思い切りはたき、ポケットから杖を取り出して振った。ホースで撒くように、杖の先から勢いよく水が飛び出す。つい先日習ったばかりの、農業用散水魔法だ。

「わっ!?」

ハヤトは油断していたのか、顔にまともに食らう。慌ててオリビアから体を離した。その隙にオリビアは立ち上がり、体勢を整える。

「お望み通り、怒ってあげるわ。ちょうどいい、勝負しましょう」

オリビアは、ハヤトに杖を向けた。言っても聞かず、態度は無視され、逃げても無駄なら、戦うしかない。


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