偽物の天才魔女は優しくて意地悪な本物の天才魔法使いに翻弄される
ひとひねりの条件
夜の河川敷には、誰も来ない。戦うにはぴったりの場所だ。オリビアは寒さをこらえて上着を脱ぎ、足元の砂利に置いた。ハヤトから充分に距離をとって、杖を構える。
「本当は正式な魔法の決闘試合とか、テストで勝負したかったけど…もういいわ。勝手な事ばっかりして…」
「冷たいよ……」
ハヤトは怪訝そうに、水に濡れた顔を拭った。
「だけどね、ハヤト…提案があるの。このままだと埒が明かないから」
ひと呼吸置き、続ける。
「私ね…実直で、私に敵わない人が、好きなの。あなたとは真逆よね。だから……”私が勝ったら”、あなたと付き合うわ」
「…?どういう事?逆じゃないの?」
「ええ。強いあなたに私が勝てたら、あなたの恋人になります。その代わり、もう自分勝手しないって約束してね。無理矢理されるのも、好きじゃないの」
オリビアは、考えた。これなら、彼を受け入れる事をためらう理由が全て解決する。ハヤトに勝てたのなら、嫉妬する必要も無い。約束させてしまえば、嫌がる事もされずに済む。
「僕が勝っちゃったら、付き合えないって事か…………」
ハヤトはつぶやき、じっとオリビアを見つめた。真剣な表情で、何か考えている。
「でも、手を抜いたりしないでね?私、そういう人嫌いだからね。私も本気でやるから。どう?」
──私の方が上なら、なんの問題も無い。そこまで本気なら、答えを見せて欲しい。あなたが勝てば今まで通り、ライバルのまま。だけど、わざと負けたら許さない。
(どうする?ハヤト)
「……分かった。いいよ」
ハヤトは考えが決まったのか、ゆっくりと頷いた。そして、オリビアに杖を向けた。
「いいのね?どうなっても、言いっこなしね。じゃあ、始めましょう」
ハヤトを見ると、いつになく真顔で杖を突き出している。何を考えているのだろうか。オリビアには読めず、途端に不安に襲われた。しかし、すぐに構え直す。
(どうせなら、勝つ。こうなったら勝利して、文句無しで付き合おうじゃないの)
ついに、オリビアは技を繰り出した。