偽物の天才魔女は優しくて意地悪な本物の天才魔法使いに翻弄される
全て彼のペース
「っ!!む、無理よ」
オリビアは急いで荷物をまとめて、ドアに向かって歩き出す。が、その前にハヤトが立ちはだかった。
「ダメだよ。ハヤト先生の授業料は高いんだよ」
「お礼は言ったわ…!それに、あなた他のクラスメイトには何でも教えてるじゃない!きょ、今日だって男子たちに宿題写させたり…!」
「野郎共のキスなんかいらないよ」
ゆっくり距離を縮められ、後ろに下がる。
「い、嫌よ。出来ない。楽しかったんだから、それでいいじゃない」
「してくれなきゃ帰さない」
「うぅ……」
「出来ないなら、僕からするよ。いいの?止まらなくなると思うけど」
背中に壁を感じ、それ以上下がれなくなった。ハヤトの手が伸びて、抱きとめられる。ハヤトは考える時間を与えてくれない。
顔を近付けられて焦ったオリビアは、観念した。
「待って!分かった!すっ、するから!!」
「やった」
ハヤトは嬉しそうに笑った。右を向いて、頬を差し出す。オリビアは意を決して、背伸びをする。わざとなのか、全くかがんだりしてくれないハヤトの肩に仕方なく手を添え、その頬にゆっくりと唇を寄せた。
(な、何で私がハヤトのほ、ほっぺに……!!)
ギュッと目を閉じ、一瞬触れ、すぐに離れる。
「はい!!これでいいでしょ!!」
オリビアはハヤトの胸を、下を見ながら押した。顔を見ることが出来ない。
「……ありがとう。凄く幸せ…意地っ張りなオリビアの課題に付き合ったかいがあったよ」
「う、うるさいっ」
「ねぇ、オリビア。明日の休み、デートしようよ」
「嫌。調子に乗らないで」
「じゃ僕の休日用の家来て」
「何それ?もっと嫌」
「僕のおかげで課題終わったのに?」
「それは関係ないでしょう」
「そんな事言うなら、これは預かるね」
ハヤトは杖を振った。オリビアのカバンから、先程苦労して作った課題提出用のボトルが出てきて、彼の手にふわりと渡る。
「あっ……ちょ、ちょっと返してよ!」
オリビアは必死に手を伸ばすが、ハヤトは高い所に持ち上げて、届かないようにする。
「返して欲しかったら、明日必ず来ること。分かったね」
「ふ、ふん。いいわ。もう1度作るから」
「へぇ、作れるの?僕無しで」
「………………うう…………」
オリビアは悔しそうに拳を作った。あれだけ難しい課題だ。ハヤト無しでは、同じくらいの出来で完成させる自信が無い。彼女は不機嫌そうな声で承諾した。
「分かったわ……行けば良いんでしょう」
「ありがとう。楽しみにしてる」
ハヤトがニッコリと笑って言う。
「……次から次へとよく思いつくわね」
「君といると楽しいよ」
「私は本当にうんざりしてるわ」
「あれ?さっき楽しかったって言ってたろう」
「……」
ハヤトには勝てない。オリビアはため息をついた。
「その代わり、今日はこれで帰るよ。ゆっくりおやすみ。さすがに3日連続はキツいだろうから」
「え?どういう事」
「ふふ……」
「ねぇ、嫌な予感しかしないんだけど」
「さぁ、どうだろうね」
「もういい。絶対行かない」
「そうか。じゃあオリビアは課題未提出でいいんだね。優等生のオリビアが、まさかそんな事をするとは」
ハヤトの意地悪な笑みに、オリビアはワナワナと震えた。
「もう、大っ嫌い!!」
「ああそう。その言葉、よく覚えとくよ。明日撤回させてあげる」
「えい!」
「おっと」
オリビアはふいをついてボトルをはじこうと魔法を繰り出したが、ひょいとかわされた。
「じゃあ、帰ろうか。はいこれ、住所」
ハヤトはオリビアに住所が書かれたメモを無理矢理持たせると、スタスタと図書館を出て、早足で歩き出した。
「ちょっと!待ちなさい!!」
「明日、教科書とかノートも持っておいでよ。一緒に勉強しよう。あ、君の大切な羽根ペンも忘れずにね」
オリビアは宿舎に着くまでボトルを取り返すべく奮闘したが、結局叶わなかった。