偽物の天才魔女は優しくて意地悪な本物の天才魔法使いに翻弄される
手に入ったも同然
あれ以来、ハヤトの行動は落ち着いた。
図書館には必ず現れ、実技やホウキの練習でも横にいる彼だが、オリビアが魔法薬を盛られたり、無理矢理部屋へ連れて行かれる事は無くなった。ハヤトはオリビアの奮闘する姿をただ優しく見守った。
とは言え時々は我慢出来なくなるのか、キスを迫られそうになる事もあった。しかし、オリビアもまたハヤトに慣れ始めていた。壁に押し付けられ、抱き締められた時は、首筋に吸い付かれる前に彼の頭を優しく撫でると止まってくれるようになった。
「最近オリビアが優しくて幸せだよ」
今日も魔法の練習帰りに、校舎の影で発作のように求めてきたハヤトをなだめていると、彼は言った。
「違うんだって。面倒だからこうしてるの。どうしてそこまで前向きなのかしら」
ハヤトは今の曖昧な関係も楽しんでいるようだった。彼は明らかに安心しきっている。
「前向きにもなっちゃうよね。あの時のオリビアは凄く素直で可愛かったからな。今度はいつ来てくれるの?」
「…ねぇ、約束、忘れた?」
拳を握りしめて聞いても、彼は平然としている。
「なんの事かな?」
オリビアは怒りで震えた──この人…無かった事にしたのを、無かった事にしてる!
「私、本当は許したくないんだからね!?」
「それは申し訳ないと思ってるんだけどさ、僕も色々考えたんだよ。媚薬しか入れてないのになぁと思って。惚れ薬は入れてないはずなんだけどな。オリビアがなんて言ってくれたのか、皆に報告しようかなぁ」
ハヤトはニヤリと笑った。オリビアをからかう時の顔だ。
「…ハヤト、魔法を教えて欲しいの」
「おや、珍しいね。何でも教えるよ」
「記憶を吹き飛ばす魔法。出来れば、その相手ごと」
「そんなものあっても教える訳ないだろ」
「そう。じゃ、帰るわね」
冷や汗を流しながら、笑顔で中庭を去る。ハヤトには口喧嘩でも、勝てそうにない。