偽物の天才魔女は優しくて意地悪な本物の天才魔法使いに翻弄される
理想の後輩
ハヤトは堂々と、自分とオリビアとの関係を詐称した。
「えっ、ハヤト!?何言ってるのよ」
「そうなんですね。1位と2位かぁ。お似合いですよ」
「レイくん、ちが…」
「オリビアは渡さないから」
「ハヤト!」
ハヤトの態度に、オリビアは声を荒げた。
「そんなつもりじゃ無いですよ。僕は純粋にオリビア先輩の実績に憧れていて……」
「そ、そうよ!失礼よ」
「オリビアは勉強で忙しいんだから、邪魔しないでくれるかな」
ハヤトにひたと見据えられ、レイはその威圧感に少し怯んだ。
「あ、あの、それなんですけど…、僕、お願いがあって来たんです。オリビア先輩、僕に、勉強を教えてくれませんか?」
「えっ?私が?」
「はい。最近、授業が難しいんですよ。今度の学年末テストも不安で。それで、憧れのオリビア先輩に教えてもらえたらなって」
「そ…そんな、私に務まるかしら…」
オリビアは緩む口元を手で隠した。初めて直接言われた「憧れ」という言葉に、先程からずっと照れっぱなしだ。
しかし、そこへハヤトが割り込む。
「レイくん、分からない所があるなら、僕が教えるよ」
ハヤトは笑顔で言ったが、目が笑っていない。
「いえ、オリビア先輩にお聞きしたいんです」
レイは、ハヤトの方を向かずに答える。
「そうだわ、レイくん。ハヤトは、教えるのも得意なのよ。私なんかより適任じゃないかしら」
ハヤトの様子がおかしいため、何とか穏便に済ませようと試みるも、レイは引かない。
「そうですか……でも、オリビア先輩がいいんです。教師を目指しているなら、なおさらあなたに教えて頂きたい」
「同じ学年の奴に聞けばいいだろう」
「無理なんです」
「何で」
「だって僕…1年生で1位なんです」
「えっ」
オリビアとハヤトは同時に、リストを確認する。
「本当ね……」
「そうなんです。だから、もう教わる人がいなくて。ひと学年上の、オリビア先輩に頼んでみようと思ったんです」
「先生は」
なおも食い下がるハヤト。
「嫌ですよ。忙しそうで、なかなか捕まらないし」
「なるほどね…私で良ければ、い…」
「ダメだ」
ハヤトが遮る。
「どうして?別に良いじゃない」
「どうしてって、君は勉強に集中したいんだろ。大事なテストだって言ってたじゃないか。それに、レイは男だよ。男と2人きりになるなんて危ない」
「大丈夫よ、そんな…」
(あなたじゃあるまいし)
ハヤトの言葉に、レイはにっこりと笑った。
「大丈夫ですよ、ハヤト先輩。僕、本当に憧れてるだけですって。心配しなくても、手を出したりなんてしませんよ」
レイは爽やかな笑みを浮かべるが、ハヤトは冷たい態度をやめない。
「どうだかね」
「ごめんねレイくん。ハヤトが変な事言って。私も復習しながらテスト勉強が出来るし、大丈夫よ。明日から、ここで勉強しましょう」
「あっ…ありがとうございます!」
「待て。だったら、僕もやる。僕も一緒だ」
「ハヤト…」
オリビアは呆れ、げんなりとハヤトを見る。
「まぁ、別にいいですよ。1位と2位の先輩方に見て頂けるなんて、贅沢だ」
レイはあっさりと応じて、明日からよろしくお願いします、と去っていった。
浮かれるオリビアと不機嫌なハヤトが、その場に残された。