偽物の天才魔女は優しくて意地悪な本物の天才魔法使いに翻弄される
浮き立つ気持ちを全開に
「……私のこと、憧れだって!嬉しい、こんなの初めてよ」
嬉しそうに話すオリビアに、ハヤトはいつになく余裕の無い表情を見せる。
「オリビア、どうしてOKしたんだい。やめてくれよ、頼むから」
「レイくんはただ、勉強熱心なだけよ?可愛い後輩じゃない」
──ハヤトの気持ちも分かるけど、何も言われていない状態で警戒し過ぎるのも、彼に失礼だと思う。
「不安なんだよ。あいつ言ってたろ。君の事、綺麗だって」
立ったまま、端に寄せていた勉強道具を定位置に整えていると、ハヤトが後ろから腰に手を回してきた。すぐに剥がそうと腕を掴むが、びくともしない。
「”思っていたよりは”でしょ。あんなの社交辞令よ」
(むしろ、ちょっと失礼寄りの、ね)
「そんなわけあるか。僕が教えるって言ってるのに、君が良いとか言い出したんだぞ」
「それはハヤトが怖いからでしょ?」
彼の態度に自分まで恐怖を感じていたオリビアは、レイの事をついかばう。
「…まぁいい。勉強会には僕も参加するんだ、オリビアに手出しはさせないさ」
さらに力を込めて腰を抱くハヤトに、オリビアも会話を続けながら抵抗する。
「レイくんに気の毒な事しないでよ」
「それはあいつ次第だ」
「それと、付き合ってるって勝手に言わないでくれる?違うんだけど」
「何でまだダメなの?」
「今みたいにね、嫌がってもやめてくれない所が受け入れられないって、何回言えば分かるのかしら」
本気で力を入れているのに、離れてくれない。
「嫌がる顔が好きなんだから、難しいよね」
「そうでした、あなたは変態だったわねっ!」
「明日から2人でいられなくなるんだから、なんと言われようと離さない。絶対にレイとは仲良くしないでくれ」
「そんな事、約束出来ない。どうせやるなら皆で楽しくやりたいじゃない」
「じゃあ、レイが変な気起こさないように、僕たちの仲を見せつけてあげようね。こうやって……」
ハヤトはオリビアの耳たぶを甘噛みし、髪を避けて首筋にキスをし始めた。抵抗しようとすると、前にテーブルがあるのに、ぐっと体重をかけられる。耐えきれず両手をついたオリビアの背中に、ハヤトはぴったりとくっつく。これ以上はまずいと思い、オリビアは観念した。
「分かった!分かったから!あ、そうだ!またハヤトの紅茶が飲みたい!お願い、淹れてくれるかしら。今日も持ってきてくれてるんでしょう?」
「……しょうがないな。約束だよ」
ハヤトは渋々オリビアから離れ、杖を振った。
(…私もなかなかハヤトへの対応が上手くなってるんじゃない?)
オリビアはホッとしながら、彼の作業を眺める。茶葉の他に余計なものを入れていないか確認して、淹れたての紅茶をすすった。