偽物の天才魔女は優しくて意地悪な本物の天才魔法使いに翻弄される
勉強どころじゃない
その後も数日間、図書館での3人の勉強会は続いた。ハヤトは毎回、レイを監視するように、オリビアの隣に座った。時々わざと席を外し、本棚の隙間から様子を見た。それでもレイは特に何もせず、真面目にしていた。
オリビアが質問に答えると、レイは目を輝かせて聞き入る。彼に説明が上手く伝わると、自分も笑顔になった。
少しずつ、勉強以外の話もするようになった。オリビアは雑談が苦手なためもっぱら聞き役だが、レイが意外にもお喋りで、明るい性格だった事から、その時間が苦痛では無かった。
彼は思った事をすぐ口に出す。オリビアには引っかかる部分もあったが、基本的にはいい子だった。話も面白い。オリビアはハヤトに言われた事を忘れてはいなかったものの、最低限のマナーとしてその場の雰囲気を大事にした。
一方、敵意を剥き出しにするハヤトへはあまり話しかけないレイ。ハヤトも、レイの話には相槌を打たない。オリビアは、2人の間を必死に取り持った。
「ふふ…ねぇハヤト、レイくんの物真似、上手ね。物理のミラー先生にそっくり」
「全然」
ハヤトは腕を組んで、壁の時計を見ている。
「そ、そんな事ないわよ?レイくん、似てるわ」
「でしょう?あの気持ち悪い引き笑い、結構練習したんですよ」
「あは…気持ち悪くはないけどね」
苦笑いでやんわりと否定していると、よそを向いていたハヤトが口を開いた。
「レイくん、もう分からない所は無いのかい?無駄話をするなら、今日は終わろうか。オリビアも自分の勉強があるんだ」
「あ、すみません、ハヤト先輩…5分しか休憩してないんですけど、先輩が仰るなら再開しますね」
「ハヤト、5分くらい、いいじゃない。私も自分の勉強、出来てるから…」
「いいんです、オリビア先輩。僕が悪いんです。勉強とはいえハヤト先輩の彼女を、誘ってしまっているんですから」
レイは眉を下げて、悲しそうに微笑んだ。
「レイくん、私たちは」
「そうだ。わきまえてくれないか」
ハヤトはオリビアに話す暇を与えない。
「…すみませんでした」
「ねぇ、ハヤトってば!後輩にそういう態度、良くないと思…」
「オリビアは黙ってて」
「!」
初めてハヤトに冷たくされ、オリビアは口をつぐんだ。そんな2人をレイはじっと見つめて、立ち上がる。
「ごめんなさい。今日は帰りますね」
気を遣ったのか、レイは荷物をまとめてそそくさと帰っていった。2人きりになってもオリビアは何も言えず、ハヤトが嬉しそうに手を繋いできても、離す事が出来なかった。