偽物の天才魔女は優しくて意地悪な本物の天才魔法使いに翻弄される
尋常ではない程の
それが他の生徒だったなら、なんとも思わなかった。しかし、授業が始まろうとしているのに机に突っ伏して寝ているのは、学年一の天才だった。彼のそんな姿を見た事は一度も無かった。
やってきた教師が横で何度も咳払いをしてようやく起きたハヤトは、目がうつろで生気が無い。当てられても答えられない。しまいには、授業態度の悪さを注意されていたが、それさえも聞こえていないようだった。
「ど、どうしたの?あれ。オリビア、何かあった…?」
「いえ…うん…私もびっくりしてる…」
ストレスを発散させるかのような威力の魔法弾に、教室での揉め事。常に余裕綽々だった彼の最近の振る舞いに、何かがおかしいという事にクラスメイトたちが気付かないはずが無い。横から小声で話しかけきたサラに、オリビアは彼女が疑問に思うのも無理はないなと思った。
ハヤトは最後まで教科書を開く事なく、授業を終えた。
***
昨日は何も言わずに帰ってしまったため、このままなんとなく流れるかと思っていた勉強会だが、今日も実施されるらしい。魔法学のクラスに、またもやレイが現れた。
オリビアは彼を見つけると勇気を振り絞って、ハヤトの席へ行った。ハヤトは、授業が終わるとまた目を瞑り、机に伏せていた。
「ハ…ハヤト…レイくん、来たわよ。今日はどうする…?どうしても嫌なら、やめましょうか…」
彼は顔を上げずに言った。
「昨日はごめん…行きたいんだろ。行っておいで…僕はやめておくから」
「え…」
「オリビア先輩!昨日はどうしたんですか?僕ショックだったんですよ?また分からない所出てきたんですよ、教えてください」
ふせんの貼られた数学の教科書を見せながら、レイが近付いてくる。ハヤトには見向きもしない。
「あ…ご、ごめんね。ね、ハヤト、本当にいいの?」
「待たせたらかわいそうだよ」
オリビアはそれ以上何も言えず、嬉しそうなレイと共に教室を後にした。
(もう…極端な人ね…)