伊月くんと僕は、どうかしている(野いちご版)
「なあ、女がいるってどんな感じ?」
移動すると部屋を汚しそうだったから、リビングから椅子を持ってきてそこに座る。伊月くんだけ洗面所に残してもよかったけど、伊月くんの家で一人リビングでくつろいでるのも変な感じがしたから、僕も一緒に座って並んで鏡を見つめることになった。
勝手知ったる伊月くんの家は第二の我が家って感じだけど、それは伊月くんがいてこそだ。
「女って言うのやめてくれない? 女である前に、依織さんっていう一人の人間なんだから」
男だの女だのやいやい言うのは伊月くんの勝手だけど、それに文句を言うのも僕の自由だ。
「ごめん」
でも、こういうとき素直にごめんって言えちゃう伊月くんはなんだかんだイイヤツなんだなって思う。
「依織が恋人になって、どんな感じ?」
コイツ、友達の恋人呼び捨てにしやがる。
僕もそんな風に呼んでないのに……
まあ、伊月くんはもともと男女問わず呼び捨てだし、友達の恋人になったからって急にさん付けになる方がおかしいか。僕の自由意思に基づいて、言及しないことにする。
「やっぱ、友達とは違う感じなのか?」
「そりゃ違うけど、伊月くんだって好きな人いるじゃん。わかんないの?」
伊月くんには好きな人がいる。伊月くんのイトコの楓お姉さん。僕も昔に会ったことがあるけど、僕らよりうんと年上で、僕らと年の近い弟がいる。昔は冬になるとよくこっちに家族で遊びに来ていたから、僕も会ったことがある。楓さんは気が強くてアクティブな人だったけど、弟くんは体が弱くて大人しいタイプだったから、僕とは気が合った。僕は割と好きだったけど、楓さんがブラコン気味だからか伊月くんは弟くんを目の敵にしていた。
楓さんが大学に入ったころからあんまりこっちに遊びに来なくなったけど、楓さんの家とお祖母さんの家が近いから、家族でお祖母さんの家に行ったときは楓さんの家にも家族で挨拶しに行って会ったりしているみたいだった。
だからまだ、初恋の人に恋をしたままだと思う。
「楓姐さんと伊織はまた違った感じだろ」
確かに伊月くんの恋は憧れ成分が多そうだったけど、僕は別にそういう感じで依織さんのことが好きなわけじゃない。
「うーん、そうだなぁ」
僕の友達といえば伊月くんだ。幼なじみでずっと一緒にいて、一緒にいるのが当たり前の家族みたいな感じだから意識したことあんまりないけど、まあやっぱり僕は伊月くんが好きなんだと思う。それも、大好きの部類だと思う。で、依織さんのことももちろん大好きだ。でも、この二つの大好きが同じかっていうと、まったく違う。
「守ってあげたい感じかなぁ。友達は別に守りたくないじゃん」
伊月くんがパッチテストをすっ飛ばしてブリーチしていても、僕は別に止めなかった。これでなんかあっても自業自得だと思うし、やった方がいいとアドバイスはするけどそこまで必死になって止めはしない。
でももしこれが依織さんんだったら、もっと必死に止めたと思う。万が一にでも万が一のことが起きてほしくない。依織さんが辛い目に遭うのは見たくない。でも、伊月くんだったらまあ別に。
依織さんが転びそうなら身を呈して一緒に転んでもいいけど、伊月くんは転んだら手を差し伸べるぐらいの感覚。
ほかのクラスの女の子たちに対してもだいたい伊月くんと同じ感じだし、やっぱり依織さんだけが特別なんだと思う。
守りたくないとか友達なのにちょっと非情かなって思ったけど、伊月くんは納得したように腕を組んでウンウン頷いてた。
「そうだよな! 男は女を守ってこそだよな!」
また男女論に発展していた。
「伊月くんも、楓さん守りたいの?」
僕らよりうんと年上でもう成人してるけど、やっぱりそう思うのかな。だから、マッチョに憧れたりしてるのかな。だから、夜な夜な腹筋背筋腕立て伏せ鉄アレイ思いつく限りのことして体を鍛えているのかな。
僕は、少年漫画のヒーローみたいに、手足に重りを巻いて生活していることも知っている。さすがに、外したら地面にめり込むような重さじゃないけど。
「…………」
返事をしない伊月くんを不思議に思って顔を見ると、赤くなっていた。楓さんの話題になると、伊月くんはだんまりが多い。
「なあ」
「ん?」
なんて答えるんだろうと楽しみに待っていると、思いもよらない返事が返ってきた。
「なんか、ピリピリする」
「え!?」
まだ二十分のアラームは鳴っていない。
「早く流した方がいいよ!」
刺激を感じたときはすぐに洗い流した方がいいって説明書に書いてあった。僕は椅子から腰を浮かせたけど、伊月くんは座ったままだった。
「どうしたの?」
「長く置いた方がパツ金になるんだよ!」
二十分我慢する気らしい。
「アレルギーなら命に関わるし、ダメだよ!?」
移動すると部屋を汚しそうだったから、リビングから椅子を持ってきてそこに座る。伊月くんだけ洗面所に残してもよかったけど、伊月くんの家で一人リビングでくつろいでるのも変な感じがしたから、僕も一緒に座って並んで鏡を見つめることになった。
勝手知ったる伊月くんの家は第二の我が家って感じだけど、それは伊月くんがいてこそだ。
「女って言うのやめてくれない? 女である前に、依織さんっていう一人の人間なんだから」
男だの女だのやいやい言うのは伊月くんの勝手だけど、それに文句を言うのも僕の自由だ。
「ごめん」
でも、こういうとき素直にごめんって言えちゃう伊月くんはなんだかんだイイヤツなんだなって思う。
「依織が恋人になって、どんな感じ?」
コイツ、友達の恋人呼び捨てにしやがる。
僕もそんな風に呼んでないのに……
まあ、伊月くんはもともと男女問わず呼び捨てだし、友達の恋人になったからって急にさん付けになる方がおかしいか。僕の自由意思に基づいて、言及しないことにする。
「やっぱ、友達とは違う感じなのか?」
「そりゃ違うけど、伊月くんだって好きな人いるじゃん。わかんないの?」
伊月くんには好きな人がいる。伊月くんのイトコの楓お姉さん。僕も昔に会ったことがあるけど、僕らよりうんと年上で、僕らと年の近い弟がいる。昔は冬になるとよくこっちに家族で遊びに来ていたから、僕も会ったことがある。楓さんは気が強くてアクティブな人だったけど、弟くんは体が弱くて大人しいタイプだったから、僕とは気が合った。僕は割と好きだったけど、楓さんがブラコン気味だからか伊月くんは弟くんを目の敵にしていた。
楓さんが大学に入ったころからあんまりこっちに遊びに来なくなったけど、楓さんの家とお祖母さんの家が近いから、家族でお祖母さんの家に行ったときは楓さんの家にも家族で挨拶しに行って会ったりしているみたいだった。
だからまだ、初恋の人に恋をしたままだと思う。
「楓姐さんと伊織はまた違った感じだろ」
確かに伊月くんの恋は憧れ成分が多そうだったけど、僕は別にそういう感じで依織さんのことが好きなわけじゃない。
「うーん、そうだなぁ」
僕の友達といえば伊月くんだ。幼なじみでずっと一緒にいて、一緒にいるのが当たり前の家族みたいな感じだから意識したことあんまりないけど、まあやっぱり僕は伊月くんが好きなんだと思う。それも、大好きの部類だと思う。で、依織さんのことももちろん大好きだ。でも、この二つの大好きが同じかっていうと、まったく違う。
「守ってあげたい感じかなぁ。友達は別に守りたくないじゃん」
伊月くんがパッチテストをすっ飛ばしてブリーチしていても、僕は別に止めなかった。これでなんかあっても自業自得だと思うし、やった方がいいとアドバイスはするけどそこまで必死になって止めはしない。
でももしこれが依織さんんだったら、もっと必死に止めたと思う。万が一にでも万が一のことが起きてほしくない。依織さんが辛い目に遭うのは見たくない。でも、伊月くんだったらまあ別に。
依織さんが転びそうなら身を呈して一緒に転んでもいいけど、伊月くんは転んだら手を差し伸べるぐらいの感覚。
ほかのクラスの女の子たちに対してもだいたい伊月くんと同じ感じだし、やっぱり依織さんだけが特別なんだと思う。
守りたくないとか友達なのにちょっと非情かなって思ったけど、伊月くんは納得したように腕を組んでウンウン頷いてた。
「そうだよな! 男は女を守ってこそだよな!」
また男女論に発展していた。
「伊月くんも、楓さん守りたいの?」
僕らよりうんと年上でもう成人してるけど、やっぱりそう思うのかな。だから、マッチョに憧れたりしてるのかな。だから、夜な夜な腹筋背筋腕立て伏せ鉄アレイ思いつく限りのことして体を鍛えているのかな。
僕は、少年漫画のヒーローみたいに、手足に重りを巻いて生活していることも知っている。さすがに、外したら地面にめり込むような重さじゃないけど。
「…………」
返事をしない伊月くんを不思議に思って顔を見ると、赤くなっていた。楓さんの話題になると、伊月くんはだんまりが多い。
「なあ」
「ん?」
なんて答えるんだろうと楽しみに待っていると、思いもよらない返事が返ってきた。
「なんか、ピリピリする」
「え!?」
まだ二十分のアラームは鳴っていない。
「早く流した方がいいよ!」
刺激を感じたときはすぐに洗い流した方がいいって説明書に書いてあった。僕は椅子から腰を浮かせたけど、伊月くんは座ったままだった。
「どうしたの?」
「長く置いた方がパツ金になるんだよ!」
二十分我慢する気らしい。
「アレルギーなら命に関わるし、ダメだよ!?」