新人洗濯係がのぞいた秘め事~王太子の秘密を暴いた先にあるのは溺愛か死か~
 汚れがひどいものはサボンソウからとったエキスで手洗いする。サボンソウはナデシコ科の植物で、その葉っぱを水に入れてを揉むと泡立つため昔は石鹸として使ったという。サボンソウは薬にもなるが毒にもなるので、エキスの扱いは気を付けなくてはならない。

「ねえ、知ってる? 大昔はおしっこを発酵させて洗濯に使ったんだって」
 若い先輩の洗濯係に言われて、リエーヌはドン引きした。

「本当ですか?」
「私も最初に聞いたとき驚いたわ。ダニよけのためにトイレに洗濯物を干してた時代もあったんだって」

「そんな時代に生まれなくて良かったわ」
「灰汁は昔から使われてたみたいだけど」
 現在でもこの国では洗濯物を白く洗い上げるために灰汁は使われている。

 洗濯は重労働だが、白く洗い上がると気持ちがいい。
 洗ったものは外の木にかけた紐に干して、洗濯ばさみで固定する。洗濯ばさみは二本の木の枝を加工してブリキで巻いた単純な造りだった。

 シーツなどは植木にふわっと置いて乾かすこともある。そのためにこのあたりの低い植木は干しやすいようにカットされている。
 この国は空気が乾燥しているから、半日も干せば乾いてしまう。

 乾いたら取り込んでアイロン室でアイロンだ。
 アイロン台に洗濯物を置いて、木炭を中に入れたアイロンの熱でしわを伸ばしていく。

 この部屋もまた暑くなるから、汗が洗濯物につかないように注意が必要だった。
 だけど、ピンと皺の伸びた洗濯物を見ると気持ちがよくて、リエーヌはその瞬間が大好きだった。
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