番外編SS詰め合わせ
◆キミとの距離は1センチ
……やっぱり、どこか建物の中で待っておけばよかった。
今さら後悔しても、時すでに遅し。私は首に巻いたストールを手持ち無沙汰に弄りながら、目の前に立つ人物を見上げた。
「きみ、めちゃくちゃスタイルいいね! もしかしてモデルとかやってる? 時間あるなら俺と遊ばない?」
駅前の花壇に腰かける私の前で、ノンストップで話続ける若い男。ついさっき話しかけてきた、赤の他人である。
まさかナンパなんてされるとは思ってもみなくて、ただただ呆気にとられている無言の私を他所に、男の手がこちらへと伸びてきた。
「ねぇちょっと、聞いてるー?」
そのときだ。男が私に触れる直前、視界に人影が入り込んだ。
見覚えのあるグレーのコートに、私がプレゼントしたマフラーを巻いたその人物は。
「ごめん珠綺、待った?」
「……昴!」
待ちわびた声に、ぴょこっと私は立ち上がる。
ナンパ男は昴の登場に一瞬顔を歪めていたけれど、並んだ私たちの姿を見てへらりとまた軽薄そうに表情を緩めた。
「あ、もしかしてきみの弟? 弟クンごめんねー、ちょっとお兄さんにお姉ちゃん貸してくれる?」
「行こう、珠綺」
ムッとしかけた私と違い、清々しいまでの全力スルーである。昴に腰を抱かれるようにして歩き出すと、男が慌てた様子で声をかけてくる。
「おいっ、待──」
そのとき、初めて昴が男に視線を向けた。口もとは微笑んでいるけれど、目はまったく笑っていない。
「俺の“恋人”に、まだなにか?」
静かな低い声でぴしゃりと言い放った迫力に押されたのか、男は息をのんで動きを止める。私たちは、足早にその場を離れた。
「はあ、間に合ってよかった……珠綺、遅くなって悪かっ……珠綺?」
不思議そうに、昴が首をかしげる。たぶん、私がなぜか両手で自分の顔を覆っているせいだ。
だって、私の彼氏が。あまりにもヒーローで、キュンときた。
「さっき、かっこよかった……好きです……」
少しだけ手を下げて目もとだけ出しながら、どストレートに今の気持ちを告白する。
昴は一瞬きょとんと目を丸くして、それからふはっと笑った。
「知ってる」
ああもう、その返しもとても好きです。
今さら後悔しても、時すでに遅し。私は首に巻いたストールを手持ち無沙汰に弄りながら、目の前に立つ人物を見上げた。
「きみ、めちゃくちゃスタイルいいね! もしかしてモデルとかやってる? 時間あるなら俺と遊ばない?」
駅前の花壇に腰かける私の前で、ノンストップで話続ける若い男。ついさっき話しかけてきた、赤の他人である。
まさかナンパなんてされるとは思ってもみなくて、ただただ呆気にとられている無言の私を他所に、男の手がこちらへと伸びてきた。
「ねぇちょっと、聞いてるー?」
そのときだ。男が私に触れる直前、視界に人影が入り込んだ。
見覚えのあるグレーのコートに、私がプレゼントしたマフラーを巻いたその人物は。
「ごめん珠綺、待った?」
「……昴!」
待ちわびた声に、ぴょこっと私は立ち上がる。
ナンパ男は昴の登場に一瞬顔を歪めていたけれど、並んだ私たちの姿を見てへらりとまた軽薄そうに表情を緩めた。
「あ、もしかしてきみの弟? 弟クンごめんねー、ちょっとお兄さんにお姉ちゃん貸してくれる?」
「行こう、珠綺」
ムッとしかけた私と違い、清々しいまでの全力スルーである。昴に腰を抱かれるようにして歩き出すと、男が慌てた様子で声をかけてくる。
「おいっ、待──」
そのとき、初めて昴が男に視線を向けた。口もとは微笑んでいるけれど、目はまったく笑っていない。
「俺の“恋人”に、まだなにか?」
静かな低い声でぴしゃりと言い放った迫力に押されたのか、男は息をのんで動きを止める。私たちは、足早にその場を離れた。
「はあ、間に合ってよかった……珠綺、遅くなって悪かっ……珠綺?」
不思議そうに、昴が首をかしげる。たぶん、私がなぜか両手で自分の顔を覆っているせいだ。
だって、私の彼氏が。あまりにもヒーローで、キュンときた。
「さっき、かっこよかった……好きです……」
少しだけ手を下げて目もとだけ出しながら、どストレートに今の気持ちを告白する。
昴は一瞬きょとんと目を丸くして、それからふはっと笑った。
「知ってる」
ああもう、その返しもとても好きです。