ひと晩の交わりで初恋の人の子どもを身ごもったら、実は運命の番で超溺愛されてしまいました~オメガバース~

運命の夜

 知らなかった……なんて言葉じゃ許されない。

 許されないけれど、ずっと好きだった人なので、あの夜抱かれたことに後悔はなかった。







 オレンジ色のフロアライトが照らすシーツの波。

 遠く目の前には、東京タワーが望める都会の夜景。

 室内には、噎せかえるような甘ったるい匂い。

 発情した私のフェロモンだろうか。


 アルファとオメガ。

 本能を剥き出しにした二人の男女が獣となって、ベッドの上で激しく睦み合う。
 触れ合って少し高い体温を感じて、発情期なのはいったいどっちなのだろうと、ぼんやりした頭で美羽は考える。


美羽(みう)、かわいい……」
 吐息交じりに囁きながら、逞しい身体で私を狂おしく穿つのは初恋の人だ。

 そして今夜、私の初めての男になった人。

 オメガの私がかわいいなんてありえない。

 母親と同じ、色素の薄い茶色い髪。

 お酒を飲んでも、一向に赤くならない不健康そうな青白い肌。

 そして、奥二重の瞳。

 どこをどうみても、平均値以下の顔だ。

 しかし好きな人から与えられる賞賛は、たとえ言葉の綾だとしても素直に嬉しい。

 今日だけは。

 今夜だけは、その言葉を信じていいかなあ……。


「……っ、ぁ……久我(くが)、さん……」
 発情期はまだまだ先だと思っていた。

 もちろん、発情を抑制する薬は飲んでいた。

 だというのに、久我さんに出逢った瞬間、私のなかのオメガ性が薬だけでは抑えきれなかったのだ。
 

「美羽……」
 蜜を孕んだ湿った低い声色が、私の名前を呼ぶ。

 その事実だけで私は幸せだった。


 だからこの一夜で。
 まさか思いがけない宝物を授かってしまうなんて、誰がこのときに予想しただろうか。


「好きだよ」
 二人が爆ぜたあと、ふいに私の額に寄せられた柔らかい唇の熱を、四年経った今でも忘れられないように――。



 

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