ひと晩の交わりで初恋の人の子どもを身ごもったら、実は運命の番で超溺愛されてしまいました~オメガバース~
「あ! 俳優のキョウだ!」
私と鏡哉さんの事情をなにも知らない時任くんは、突然目の前に現れた芸能人に目を丸くした。
無理もない。
ハリウッドでも活躍している超人気俳優が、全国展開の弁当屋とはいえ、なんの刺激もない地方の片田舎に現れたのだから。
「そうなのよ。実は、今度キョウさんが『デリかがみ』のCMに出てくれることになったのよ」
ふふ、と満面の笑みで最上さんも反応する。
と、久我さんの視線がふと私の顔から手元へ移った。
「それよりも先ほどからずっと鳴り続けている保留音は、大丈夫ですか?」
「……あ、」
私と時任くんの声が重なる。
途端、目の前の久我さんのグレーの瞳が、気のせいか不機嫌に歪んで見えたような気がした。
「そう言えば最上店長、本社の方から店長宛にお電話です」
隣に立つ時任くんが、私の手のなかにある子機を左手で差した。
気のせいだろうか。今度は目の前の久我さんの眉が、むむっと眉間に少し寄ったように見える。
「もしかして、無事にキョウさんが店に到着したかどうかの確認かしら」
「わかりませんが、至急店長へ繋いでほしいとのことでした」
申し訳なさそうに後頭部をかいて、しょぼんとした犬のように時任くんが事実を告げる。
「そうだったの!? だいぶお待たせしてしまったわよね!」
失礼と最上さんは言って、私の手から焦ったように子機を受け取った。
「すみません。俺もつい、焦ってしまって折り返すことを提案しそびれてしまいました」
「あらやだ、急がなくちゃ本社の方に怒られてしまうわね」
最上さんはキョウと櫻井さんに会釈すると、慌てたように子機の通話ボタンを押しながらキッチンへ駆けていく。
ぽつんとその場に取り残された四人は、本来であればこの場のホストであっただろう最上さんが離脱したことで、それぞれ沈黙してしまう。
なんとなく気まずい空気が狭い弁当屋の室内に漂う。
どうしよう……。
まさかこんな田舎の山奥の辺鄙な場所で、まさか久我さんと再会することになるなんて。
娘を身ごもったと知ったときに、できる限り久我さんから遠い場所へ離れようと考えた末、たどり着いた山奥だ。
なるべく世間から離れよう。
なるべく世間の話題が耳に入らないようにしよう。
この先一生、久我鏡哉さんにあなたとの子どもを身ごもり、産んだことを知られないように生きていこう。
もし娘の存在を知られてしまったら、優しいあなたのことだ。
私と娘と三人で暮らそうなんて、言い出してしまうかもしれない。
けれど世間での久我さんの立派すぎる立場を考えると、両親も亡く施設育ちのオメガである私では、どうしても釣り合わないのだ。
だから久我さんから完全に逃げるために、縁もゆかりもない土地へ都会から逃げてきたというのに、なぜここへ……?
これは、偶然……なの?
一方的に後ろめたさのある私は、目の前の久我さんへ視線を向けていられなくなり、軽く俯いた。
私と鏡哉さんの事情をなにも知らない時任くんは、突然目の前に現れた芸能人に目を丸くした。
無理もない。
ハリウッドでも活躍している超人気俳優が、全国展開の弁当屋とはいえ、なんの刺激もない地方の片田舎に現れたのだから。
「そうなのよ。実は、今度キョウさんが『デリかがみ』のCMに出てくれることになったのよ」
ふふ、と満面の笑みで最上さんも反応する。
と、久我さんの視線がふと私の顔から手元へ移った。
「それよりも先ほどからずっと鳴り続けている保留音は、大丈夫ですか?」
「……あ、」
私と時任くんの声が重なる。
途端、目の前の久我さんのグレーの瞳が、気のせいか不機嫌に歪んで見えたような気がした。
「そう言えば最上店長、本社の方から店長宛にお電話です」
隣に立つ時任くんが、私の手のなかにある子機を左手で差した。
気のせいだろうか。今度は目の前の久我さんの眉が、むむっと眉間に少し寄ったように見える。
「もしかして、無事にキョウさんが店に到着したかどうかの確認かしら」
「わかりませんが、至急店長へ繋いでほしいとのことでした」
申し訳なさそうに後頭部をかいて、しょぼんとした犬のように時任くんが事実を告げる。
「そうだったの!? だいぶお待たせしてしまったわよね!」
失礼と最上さんは言って、私の手から焦ったように子機を受け取った。
「すみません。俺もつい、焦ってしまって折り返すことを提案しそびれてしまいました」
「あらやだ、急がなくちゃ本社の方に怒られてしまうわね」
最上さんはキョウと櫻井さんに会釈すると、慌てたように子機の通話ボタンを押しながらキッチンへ駆けていく。
ぽつんとその場に取り残された四人は、本来であればこの場のホストであっただろう最上さんが離脱したことで、それぞれ沈黙してしまう。
なんとなく気まずい空気が狭い弁当屋の室内に漂う。
どうしよう……。
まさかこんな田舎の山奥の辺鄙な場所で、まさか久我さんと再会することになるなんて。
娘を身ごもったと知ったときに、できる限り久我さんから遠い場所へ離れようと考えた末、たどり着いた山奥だ。
なるべく世間から離れよう。
なるべく世間の話題が耳に入らないようにしよう。
この先一生、久我鏡哉さんにあなたとの子どもを身ごもり、産んだことを知られないように生きていこう。
もし娘の存在を知られてしまったら、優しいあなたのことだ。
私と娘と三人で暮らそうなんて、言い出してしまうかもしれない。
けれど世間での久我さんの立派すぎる立場を考えると、両親も亡く施設育ちのオメガである私では、どうしても釣り合わないのだ。
だから久我さんから完全に逃げるために、縁もゆかりもない土地へ都会から逃げてきたというのに、なぜここへ……?
これは、偶然……なの?
一方的に後ろめたさのある私は、目の前の久我さんへ視線を向けていられなくなり、軽く俯いた。