ひと晩の交わりで初恋の人の子どもを身ごもったら、実は運命の番で超溺愛されてしまいました~オメガバース~
「もう情報解禁時刻になっていたんですね」
 まるで他人事のように久我さんは顎に手を当て、ふむ……と言った様子で首を傾げた。

「そうなんですよ。『デリかがみ』さんとのお仕事が、実質芸能界で最後のお仕事になります」

「芸能界で最後?」
 間髪入れずに時任くんが驚愕した。

「おい、キョウ。まだ引退ではないだろう」
 櫻井さんが情報の訂正を久我さんに求める。

「いえ、僕はもう芸能界を辞めるつもりですが」

「えぇっ!??」
 最上さんと時任くんの絶叫が重なった。

「なにもこんなところで、内部事情を明かさなくてもいいだろう」
 神経質そうな顔を険しく歪めた櫻井さんが、小さくため息をつきながらこめかみを押さえる。

「いえ、『デリかがみ』のみなさんとは今後切っても切れない関係になると思いますので、先にお伝えしておくのが筋かと思いまして」
 櫻井さんの不機嫌さえも呑み込みそうなほど、久我さんは上機嫌なスマイルを繰り出した。

 なんだか嫌な予感がする。

 嫌な予感というものは、そしてたいてい当たってしまうもので……。

 胡乱げに久我さんを見つめていた私は、ふいに前方から大きな手に腰を引き寄せられた。

「……!」
 予期せぬ出来事に、私の胸は壊れそうなくらいどきっと拍動する。

 同時に久我さんから匂い立つ甘やかな香りが、さらに私の鼓動を速めていく。

 どうして、と思った。

 どうして店の皆の前でこんなことを、と。

 だってこんなふうに親密そうな距離感で抱かれてしまったら、過去の私たちが犯してしまった関係性が露呈してしまうかもしれないのに。

 いまの久我さんは世界でも活躍する超有名俳優で、けれど私は身寄りのない施設育ちのオメガで、あなたとは分不相応の釣り合わない身分だというのに。
 
 当然、四つの瞳が怪訝そうに私を見つめる。

 久我さんとは、どういう関係なのかと。

 というより、久我さんはいったいどういうつもりで私を胸に抱き寄せたのだろう。

 芸能界を休業、否、引退するかもしれないとはいえ、世間に誤解されるようなリスクある関係性を、わざわざ披露するのが得策だとは思えない。

 すると、久我さんが悩んでいた私の代わりに、現状の答えを口にした。

 

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