ひと晩の交わりで初恋の人の子どもを身ごもったら、実は運命の番で超溺愛されてしまいました~オメガバース~
「美羽さん、お疲れ様です」
 私がキッチンの端で家から作ってきたお弁当を食べようと包みを開けると、黒いキャップを目深にかぶった背の高いすらっとした大学生のバイトくんが裏の出入り口からやってきた。

 ベータだという彼は、私の四歳年下でこの近くのアルファばかりが通う超有名エリート大学に通う四年生だ。
 
 バース性に特化した研究が進んでいるその大学の医学部にどうしても入りたかったようで、高校時代の三年間死ぬ気で勉強を頑張ったらしい。

 頑張る人間は年齢どうあれ、つい応援したくなってしまうのは、子を持つ親になったからだろうか。

時任(ときとう)くんお疲れ様。相変わらず大きいねぇ」
 オメガは小柄で華奢な人が多い。

 例にも洩れず、私も成長期に身長が一五四センチでストップしてしまっていた。

 だから背の高い人を見ると、つい羨ましいなあと見上げてしまう。
 時任くんもそうだ。

「はあ、大きいっすかね」
 時任くんと呼ばれた男は、基本無口で愛想がない。

 けれど、誰よりも周りをよく見ていて、気が利いて思慮深いと知ったのは、一緒に働くようになってから一年過ぎたあたりからだった。
 若いのに、できた子もいるもんだと私は親目線で感心している。

 年は私と四つしか変わらないのに。
 できれば娘も第二次性など関係なく、時任くんのように気が利いて、優しい子に育ってほしいと願っている。

 いや、願わなくとも身分の低い私にも優しかったあの人の血が半分流れ、同じ第二次性がアルファの娘は、間違いなく思いやりのある優しい子に育つだろう。


 発情期で理性を飛ばした私を、かつて同じ施設で寝食をともにしたという理由だけで抱いてくれた、優しい人の血を引いた子どもなのだから――。
 

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